細野晴臣という人は、ものすごくファンキーなのですね。それは自身のソロ・アルバムだけでなく、他のアーティストや歌謡曲を手がけた時でさえ、何かこう腰にグッとくるリズムを提示してくるんですよ。テクノというのは単純なピコピコというのも一種の芸だったりするんですが、その単純なピコピコの好き間に、独特のシンコペーション・リズムを加えるのが細野晴臣氏の特徴。さらにコード進行も独特で、松田聖子のようなアイドルに作曲したものでさえ「えぇ〜、ここでこんな転調するの〜!」と驚くようなものも少なくない。坂本龍一氏が、ソロになると独特のアコースティック路線に流れがちなのに対して、細野氏は現在に至るまでテクノ道を突き通してますね。

90年代に細野晴臣越美晴でスウィング・スローというユニットを結成したときも、ノスタルジーを武器にしながら音楽は独特の揺れを持ったラウンジ系の流れを組んだものだったのですが、結局聴いてる方の印象としては「テクノ」としかいいようがないんですね。テクノ・ポップが日本製だとしたら、ボクは、細野晴臣の歩んできた道のりこそ「テクノ・ポップ」の歴史そのものではないかと思いますね。この「ポップ」というのがポイントなんですよ。すごく高度な作曲方法やアレンジの技術をもっているのに、けっしてアカデミックではないところ。このバランス感覚が、細野流ポップなんですね。YMO活動期から、細野氏が交通事故を起こす80年代後半ぐらいまでの氏の手がけた作品は、歌謡曲やニューミュージックを含め、もうすべて現在の耳で聴いても聴き所満載だと思います。

そんなわけで、前置きが長くなりましたが、今日は先のスウィング・スローの歌姫、越美晴の「パラレリズム」('84)をピック・アップします。これも中学生ぐらいの時にレンタルしたアルバムですが、当時も今も「あぁ、テクノ・ポップだなぁ」という印象で、もう20年以上昔のアルバムなのに、時代性がまったく感じられないほど「今」っぽいです。懐かしいという感じがしない。いつ聴いても新譜みたい。絵に書いたよなピコピコの音と、感情を殺ぎ落としたような女性ボーカルの無機質な雰囲気が、独特のエキゾチズムを醸し出していて、日本語で歌われてるのに、どこかフランスあたりのニュー・ウェイヴ・バンドのよう。全体を包み込むのは、暗くならないほどの「退廃美」なんですが、その後のワールド・ミュージックを予感させるアレンジもあり、とにかくプロデュースの細野氏のワザを感じる最高のアルバムに仕上がってます。越美晴のソングライティングの力にも目を見張るものがあり、現在のカフェ、ラウンジなど雑貨系大好きな少年少女の必須アイテムになることまちがいナシの時代を先取りしたアルバムです。テクノ万歳。