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ボクが幼少の頃、父親がやたらに家族をほったらかしにして1人で海外旅行していたような記憶があるんですが、今思うと、あれは仕事なのか遊びなのか。いまだによくわかりませんね。でも、ボクはそのころから「大人になるということは、海外に行くという事だ」とか思い始めたのです。う〜ん、そのわりには今のボクは思いっきりドメスティックな生活をしているわけなんですが(笑)
だからというわけではありませんが、ボクはそんな父が買ってくる外国のお土産の類が大好きでした。お菓子とか缶詰とか、そういうたぐいのものなんですが、その外国ならではの商品のパッケージ・デザインを見てると、なんかこう自分も外国を旅してきたような気持ちになれるのですね。
もしかして、そういう気持ちこそが「トロピカル」とか「エキゾチック」ということなのかもしれません。異国の文化に直接ふれあうのではなく、あくまで間接的に雰囲気だけたしなめるような感じ。細野晴臣の音楽も、まさにそれなんですね。特にこの「トロピカル・ダンディ」('74)というアルバムは、カリブ海あたりの港町を旅するような気分を味わえる独特のエキゾチズムに支えられています。アルバム・ジャケットも、何だか「お土産」っぽいデザインで、これを眺めていると、やはり父が海外で買ってきてくれたお土産の類を思い出してしまいます。ちなみに、このイラストは無名時代のデザイナー、八木康夫(フランク・ザッパの日本盤の解説なんかで有名な人ですね)。何でも個人的にプレゼントしたイラストを細野自身がいたく気に入って、ジャケット用に書き直して欲しいとお願いしたそうです(「泰安洋行」も彼のデザイン)。プロコル・ハルムの「ソルティ・ドッグ」を意識したんでしょうが、あのアルバムも海の匂いを感じさせてくれる音楽でした。
オープニングは、なんとカルメン・ミランダのアレンジをそのまんまいただいたという「チャタヌガ・チュー・チュー」。この「スコアリングを完コピ」することの快感をダイレクトに表現するというワザが、かえってオリジナリティを感じさせるから不思議です。続く「ハリケーン・ドロシー」では、得意のエキゾチックで優雅なメロディ。しかしリズム・ボックスとワウワウ・ベースというファンキーな隠し味が細野流なんですね。中華風の「絹街道」や「北京ダック」あたりは、完全にチャンキー・ミュージック、あるいはソイ・ソース・ミュージックというコンセプトを見事に確立しています。ところがB面は「三時の子守唄」など、前作のSSW路線の名残もあり、その分「泰安洋行」に比べ中途半端という向きもあるようですが、風変わりなシティ・ミュージックということで、むしろムーン・ライダーズの「火の玉ボーイ」の方と共通する匂いも感じたりします。それにしても両者ともロックの汗臭さとは無縁の音楽ですね。