その昔、テレビ朝日でやっていた「AVガーデン」という深夜番組を憶えていらっしゃる方いますでしょうか?たしか80年代後半だったと思いますが、サエキけんぞう氏が司会のこの番組、毎週のように細野晴臣氏が登場してました。この番組、あのティン・パン・アレイ時代の中華街でのライブ映像なども流したりして、細野晴臣及び、その周辺の音楽が好きなファン(要するにボク)にはたまらないものがありましたね。

で、その「AVガーデン」のオープニング・テーマが、この「はらいそ」('78)のトップを飾る「東京ラッシュ」という曲でした。今でこそCDになって再発されている「はらいそ」ですが、その頃はまだ再発されておらず、LPは廃盤でした。「東京ラッシュ」はボクのお気に入りになり、何とかがんばって「はらいそ」を見つけるために中古レコード屋をさがしましたっけ。そうやって苦労して手に入れた「はらいそ」だけに、ようやく聴けたときは、すごく感激した記憶があります。

いわゆる「トロピカル3部作」の最終作にあたるのですが、レーベルを移籍して、録音がアルファスタジオになったためでしょうか、前2作にくらべると録音がクリアーになったような気がします。時にシンセイザーのきらびやかな音色が素敵で、おそらく当時のポリフォニック・シンセサイザーのプリセット音そのままなんでしょうが、そのヴィンテージな音色がまたいいんですね。

「四面道歌」や「ウォーリー・ビーズ」のようなオリエンタルな雰囲気や、「安里屋ユンタ」のような沖縄メロディーが、細野流ともいうべきタイトで独特のリズムによって次々にあの手この手で登場します。例の「東京ラッシュ」も、R&B風と見せかけて中華風だったりと、その絶妙な和洋折衷っぷりは「泰安洋行」をさらに進化させたような素晴らしい仕上がり。並の音楽家だったら、ここまで完成度高いアルバムを作ってしまえば、もう音楽やめてしまうんではないか、というくらいに(少なくても、ボクならそうだ)。しかしその後インド旅行で気持ちをリセットし、実験的な「コチンの月」でテクノを導入、その成果をYMOというプロジェクトに発展させていくのですから、その音楽的スケールとバイタリティは超人的としかいいようがありません。

細野晴臣自身は、「はらいそ」を制作しているときは、けっこうダウナー状態だったらしいのですが、そんなことは微塵も感じさせない完成度高いポップスに仕上がっています。このアルバムには一分一秒とも無駄な部分やつまらない部分がありません。こんなスゴいアルバムはボクにとって、そうそうあるものじゃありませんよ。ほんとスゴイ!!!