シンセサイザーでポップスをやるというYMOの発想は、あっというまに歌謡曲のシステムに飲み込まれ、最終的にはYMOすら歌謡曲のパロディをやって幕を閉じるというオチになってしまいます。しかもYMOのメンバー事体も歌謡曲の仕事を、自分たちの「実験場」として大いに利用していたような感じもあります。まさにYMOが勝つか歌謡曲が勝つかという感じの競争ですよね。ちなみにYMOが歌謡ヒットでオリコン1位を目指して書いたといわれる「君に胸キュン」は、残念ながら2位だったのですが、その時の1位が細野晴臣提供曲の松田聖子だったというから皮肉ですね。

そんなYMOの「歌謡曲」の仕事を集大成した3枚組CDがこれ。「イエローマジック歌謡曲」です。実際には歌謡曲とは言いがたい南佳孝大貫妙子あたりも入っているのが微妙なんですが、とにかく選曲/監修が、あの「電子音楽 イン ジャパン」という面白すぎて鼻血が出そうな素晴らしい本を書いた田中雄二氏ですから大丈夫。各曲に寄せられた氏のコメントも必見です。当時のジャケ写がないのが残念ですが、先の著書やシンコーミュージックのガイド本「テクノ・ポップ」を観れば、よりイメージがわいてくるでしょう。ちゃんと発売日順に並んでいて、そのために楽曲の流れはデコボコなのですが、その雑種性が、ある意味で歌謡曲らしいともいえるのではないでしょうか。

最初の頃はYMO自身も「歌謡曲的なもの」を暗中模索していたようだったのに、矢野顕子の「春咲小紅」やイモ欽トリオの「ハイスクールララバイ」がヒットしてきたあたりから、あえて開き直って、絵に書いたようなテクノな雰囲気を歌謡曲の現場に持ち込んでいくあたりが、ドキュメントのような流れで伝わってきます。

個人的な大ヒットは、何と言ってもスターボーの「ハートブレイク太陽族」。軍歌のように低くドスの効いた声で歌う3人の女性は、一応サン・ラーのように宇宙から来たというコンセプトでデビューしましたが、歌詞はあえて男の歌にして性のイメージを超越させるという企画に大笑いです。でもマジだったんでしょうか。ちなみに詞は一応松本隆なんですけど(笑)

さらにYMOのインストに無理矢理歌詞をつけたコスミック・インベンション。ほとんど「BGM」期のYMOのようなダークなテクノ・サウンドを無視して、かわいらしく無邪気に歌う真鍋ちえみ。ほとんど細野作品の実験場として利用されていただけのような少女隊まで、濃い〜曲満載で楽しめます。基本的にメロディーメイカーの3人なのか、思わず口ずさんじゃうような曲が多いのもいいです。まさにYMO世代にとって「これを待っていた」という感じの見事な編集盤でした。続編に期待します。