「Decline Of O.T.T」を完成させたF.O.Eは、何とジェームス・ブラウンの前座でライブをしたのですが、ここでJ・Bファンの客から大ブーイングの嵐が起こってしまうという事件がありました。実は、このライブの時点ではまだF.O.Eは1stシングルすら発表されていない状態であり、彼らの騒音のようなエレクトロ・ファンクは、まったくソウル・ファンに受け入れられなかったのです。そして、F.O.EがJ・Bを迎えて「セックス・マシーン」を録音するものの、今度は細野晴臣が足の骨を折ってしまうという事件が起こります。そのせいか、せっかく発表されたF.O.Eのフル・アルバム「セックス・エナジー&スター」('86)(写真)には細野氏は2曲のアレンジにかかわる程度で、残りの曲は若手2人にまかせてしまっています。こうした細野氏を取り巻くアクシデントと、さらにノン・スタンダードというレーベルそのものの業績不振などが重なり、以後急速にF.O.E.というプロジェクトは失速しはじめました。

アルバムは、先の12インチ2枚で見せたダンス・ビート指向を受け継いでいるものの、あきらかにサウンドはマンネリ状態に陥っているように感じられます。若手2人の曲は手堅いエレクトロ・ヒップ・ホップとはいえ、やはり細野氏が作曲やアレンジにかかわっていないと、どうしても腰にグッとくるリズム感が感じられないのは気のせいでしょうか。先に述べたJ・Bとの共演曲で、7インチでシングル・カットまでされた「セックス・マシーン」も、いまひとつキレがないような気がします。もっとも、この曲の録音の時は、肝心のJ・B自身が、まともに歌える状態ではないほどメタメタだったらしく、結局ほとんどボーカルをエディットせざるを得なかったとか。

このアルバムの唯一の聴き所は、細野氏が歌いアレンジしたドクター・ジョンのカヴァー「Right Place Wrong Time」でしょう。オリジナルはミーターズがバックを担当した、いかにもニューオリンズ・ファンクらしいものでしたが、そのシンコペーションなノリを生かしつつ、最先端のエレクトロ・ファンクにしてしまう細野氏の鮮やかなファンキー・センスには感服してしまいます。YMO時代の「Madman」やソロ時代の「Living-Dining-Kitchen」あたりの延長線にある音ですが、こうした細野氏のエレクトロ・ファンキー路線をもっと聴きたかったと思うファンの願いをよそに、F.O.Eというプロジェクトが以後アルバムを発表することはありませんでした。