モナド・レーベルの第3弾「パラダイス・ビュー」('85)は、沖縄で撮影された同名映画のサントラ。何と琉球語のセリフに標準語の字幕がつくと言う不思議な作品。全編ロケにより40日間で撮られました。細野晴臣自身も森の司祭という役で出演し、他にも戸川純、小池玉緒など、YENレーベル時代のお友達もこぞって出演しています。セリフが琉球語なわけですから、役者はテープでセリフをマスター。撮影にはさぞかし苦労したと思われます。

「パラダイス〜」と聞くと、どうしても「はらいそ」を連想してしまうわけですが、70年代に試みたエキゾチック路線とは当然内容は違います。インストで即興的なシンセ・ミュージックであり、アプローチはとてもシリアスです。映画音楽ということで、氏が手がけたサントラ「銀河鉄道の夜」にも近い感じがありますが、幾分抽象的なメロディーが多いので好みは別れそうです。

相変わらず美しいジャケットから取り出したレコードに針を落とせば、程よいエコーに包まれた熱帯夜のようにボーっとしたシンセサイザーの音と、細野ならではのエキゾチックなメロディーが即興的なアプローチで奏でられています。まるで夢の中のサウンドのように、1曲1曲がボンヤリと流れていきますが、やはりというか、さすがというか、かつてのマーティン・デニーのようなサウンド・エフェクトを、あくまでフェイクではなく、きちんと肉体化しながら、それをシンセサイザーで置き変えているのはさすが。「ルーチュー・ガンボ」ならぬ「Roochoo Jazz」なんて曲もあり、こうしたモナド・レーベルで試みた実験的なサウンドひとつひとつが、やがて自身の傑作アルバム「Omni Sight Seeing」('89)で生かされていくわけですね。

このアルバムはミュージック・マガジンで音楽評論家の高橋健太郎が85年の年間ベスト10に選んでいましたが、一般的なセールスという意味においては殆んど無視されていたように当時から感じていました。やはり細野氏には、研究発表のような実験的な作品ではなく、一般的なポップス・アルバムを作ってもらいたい。悲しいけれど、それが当時のファンの正直な心理だったのではないでしょうか。ただ今聴くと、こうした実験的なモナドの作品も、いわゆるポップスからは程遠いとはいえ、ちゃんと細野流の「ポップ」が散りばめられているのは確か。決して難しい内容ではないというところに、プロデューサーとしてのバランス感覚を感じます。このあたりの「やり過ぎない」感じが、自己主張の強い坂本龍一のソロ作品との決定的な違いかもしれません。