アイデン&ティティ

bluemarble2005-06-09

原作/みうらじゅん、監督/田口トモロヲ、脚本/宮藤官九郎という最強トリオによる青春映画が、この「アイデン&ティティ」('04)。

イカ天」に象徴される、あのバンドブームの最中にデビューしたSPEED WAYは、やがてバンドブーム衰退とともに苦境に立たされる。リーダーの中島は、売れるものを作る事と、ロックな精神を貫く事のギャップに苦しんでいた。そこへ、いきなりボブ・ディランが現れ、中島にメッセージを送る。しかしディランは中島にしか見えない。一方、同時期にデビューしたライバル、GODの岩本は、ビジュアル系からヒップ・ホップまでスタイルを変え、着実に人気を持続している。

実は原作のマンガを昔読んだ時点で結構泣かされていました。それだけに映画化は不安だったと同時に、今度ばかりは泣きはしない、と心に誓ったものの、映画の後半は、ずっとウルウルしっぱなしでした。ロックな映画といっても、まるっきりスタイリッシュではなく、ものすごい貧乏臭い映画なことは確かなのですが、自分もミュージシャンの端くれとして、この主人公の中島の行動一つ一つに共感してしまうのです。逆にいえば、この映画を観て何にも感じないという人がいたとしたら、その人は「ロックを愛していない人」か、あるいは「ものすごい大人」でしょうね。

ロックを単なるブームに乗った商売として捉える大人と、ロックを貫く事で自分のアイデンティティを確立しようとするロック・ミュージシャンとのズレ。そこへ、絶妙なタイミングでディランの言葉(ハーモニカの音に字幕が入る)がインサートされます。当然のように、ラストは「ライク・ア・ローリング・ストーン」が字幕入りで流れる。

ボクも音楽事務所で働いていたので、時々ヒドイ話が持ちかけられたことがありました。ギターも歌もヘタクソなイケメンの兄ちゃんをデビューさせるというプロジェクトに参加してくれという話。男のマネージャーは「とりあえず彼をロックなシンガーソングライターで売り出したいんですが、彼はまだ曲を書いた事がありません。だから渡辺さん、あなたが彼に曲作りのアドバイスをしてください」だってさ。くだらないね。ロックじゃないよ。曲が書けないシンガー・ソングライターって何だよ(笑)まったく音楽業界とは、そういう「バカ」の集まりだということがよ〜くわかりました。そしてディラン、こんな時こそ猛烈にあなたが恋しくなるのですよ(笑)