ボクの勝手なイメージの中で、サイモン&ガーファンクルの「ブックエンド」('68)というアルバムは、秋から冬にかけて聴きたくなる雰囲気の作品です。アナログ盤のA面は、当時流行っていたビートルズの「サージェント・ペパーズ〜」症候群ともいえるコンセプト重視のメドレーですが、まずこの流れが、とても素敵です。何が素敵かというと、すごく物悲しい雰囲気なんですね。ロックというと「若者の音楽」みたいな一般的なイメージがあるとしたら、ここでも彼らは、まるですべてに達観してしまった老人のように、厳かにたたずんでいるような感じなのです。

初めて聴いた時、僕はA面途中で出てくる「老人の会話」のようなSEの部分がサッパリ理解できなかったのですが、今では、この部分がないと、次に続く「オールド・フレンズ」という曲の存在感はまるで違うものになってしまうと言ってもいいほどです。アート・ガーファンクルは、ニューヨークからロサンゼルスにかけてさまざまな場所で、この老人たちのぼやきのような会話のテープを録音していったそうです。何故にこのようなコレクションをしていたのか、詳しくは知りませんが、老人の会話を通して人生の意味を知るという好意は、その後の彼の「役者」としての活動においても、大いに意味があったことなのかもしれませんね。

このご存知のとおり、A面は、子供が生まれて老人になるまでを駆け足で綴ったようなメドレーなんですが、まず驚くのは、68年録音とは思えない、そのサウンドのクリアーさ。当時のCBSスタジオの最先端だった16トラックのマルチ・テープを使った録音(当時はロック界では4チャンネルが一般的でした)によるものでしょう。おそらく同じスタジオを使ったと思われるのが、あのサイケデリアの隠れた名作ミレニウムの「ビギン」でしょう。よくよく聴くと、両者のサウンドには、とても共通点があるような気がします。

若者のカップルが、本当のアメリカを探すために旅に出る「アメリカ」という曲が好きです。歌の終わりで「キャシー、どうしたらいいのだろう」と嘆く主人公が悲しすぎますが、この曲の苦いエンディングは、一連のアメリカン・ニューシネマのような雰囲気すらありますね。ニューシネマといえば、映画「卒業」にも使用された「ミセス・ロビンソン」もB面に入っています。何となくボクはポール・サイモンを見ると、同時にダスティ・ホフマンも連想しています。同じユダヤ系のルックスからでしょうか。

あと何故か好きなのは「パンキーのジレンマ」という曲で、こういうちょっとおどけたような洒落っ気に、ボクはたまらなくニューヨークを感じてしまうのです。一度も行ったことないけどね。