どの曲2〜3分であっという間に終わってしまうのに、単純にポップ・ソングとはいえないような重厚な響きがあるのが、いかにもこの人らしい。クセのある声を、カラフルなオーケストレーションが包み込み、メロディはロックン・ロールをさらに遡って、古くはコール・ポーターガーシュインのようなスタンダード・ソングの時代にまで遡るよう。でもミュージカルのような華やかさとは違って、まるでサーカス小屋の見世物音楽みたいな雰囲気も。

ランディ・ニューマンの歌は、ソングライターの言葉のままにリスナーが受け入れることを断固拒絶するような、ある意味で実にわかりにくいシンガーでもあります。歌われてるのは「デブ」だの「ハゲ」だの「チビ」、あるいは「ブラック」や「イエロー」な人々を徹底的にやり込めるような差別の歌だったりします。もちろん本人が、そういう偏屈な人というじゃなくで(まぁ偏屈でもあるんだけど)、「こういうヤツがアメリカにはいるんだぜ」という半ば自虐的ともいえる歌だったりします。つまり一貫してアメリカをテーマにしてきた人。

駄作のないランディのアルバムの中でも、とりわけ「セイル・アウェイ」('71),「グッド・オールド・ボーイズ」('74),「小さな犯罪者」('77)は大傑作といってもいいアルバムだと思いますが、なぜか今回はデビュー・アルバム('68)をとりあげてみました。別にたいした理由はないのですが、さすがにランディ。デビュー作にして青臭さなど微塵もない、堂々とした世界観を作り上げています。このアルバム、いつものワーナー・レーベルでお馴染みのレニー・ワロンカーと並んで共同プロデュースしているのが、ご存知ヴァン・ダイク・パークスです。そして冒頭にもふれた「カラフルなオーケストレーション」こそがヴァン・ダイクのアレンジであり、この作品はほとんどランディとヴァン・ダイクのデュオ・アルバムといってもいいくらい、二人の息はピッタリあっています。ランディの朴訥としたピアノを追うように、昔のハリウッド映画のようなノスタルジックなオーケストレーションが駆け巡る様は絶品です。ヴァン・ダイクの「ソング・サイクル」('68)からサイケという時代のベールを抜き取ったら、案外こんなアルバムになるのではないでしょうか。

皮肉でキツイ冗談のような歌の合間を縫うように「Living Without You」や「I Think It's Going To Rain Today」のような美しいバラードが挟みこまれるのもいいです。やはり根っこの部分ではロマンチックな人でもあるんですね。そう考えると、彼の皮肉っぽさは、照れ屋の裏返しようなものかもしれませんね。これまで手がけた映画音楽も予想以上に多いし。やはりロック・ミュージシャンというより「作曲家」というのがピッタリくる人ですね。ジャケットの風貌からして、そういう感じじゃないですか。