難しいことは何も言いたくないですね。もう、ただたた「いい曲」を書く人です。このスティーブン・ビショップの「ケアレス」('76)というアルバムは、別に傑作とか名盤だとか大げさな表現は似合わないような気がします。ボクにとっては空気のように心がどんな状態であっても、スッと体に馴染んでくれる音楽です。

この徹底した普通さは、70年代独特の温もりある音質もあるのですが、やはり彼の人柄のなせる業なんでしょうか、実にやさしい気分にさせてくれます。あんまり使いたくない言葉ですが、これこそボクにとっての「癒し」のポップスでしょうか。こういうアルバムを、単にAORとか、そういう言葉で片付けてもらいたくないなぁ。でもAOR再評価は90年代以降、常にジワジワと人気がある傾向なので、そういう分野でまた注目を浴びてくれれば、それはそれで嬉しいのですが。

リアルタイム派の間では(ボクは違いますが)アート・ガーファンクルが彼の曲を取り上げたことで注目を浴びた人らしいです。ジミー・ウェッブなんかも確かそうでしたよね。しかしビショップの良さは、曲だけじゃなくて声にもあるんです。特に個性的という声でもないのですが、その甲高く柔らかい声質は、ロマンチックで甘い気分にさせてくれるのではないでしょうか。

このアルバムからのヒット曲「オン・アンド・オン」は、ケニー・ランキンも絶品のカバーしていますが、たしかに両者には近いものを感じます。ただランキンは、どこかテクニカルで孤高な人という印象もあるんですが(実際はひょうきんな人らしいけど)、ビショップは、もっと庶民派のような親しみやすさがあります。ニュー・ウェイブ時代には、変なメガネと派手な服を着て、ちゃっかり時代に媚びを売ってるようなアメリカンらしい大らかな気質も、まぁこの人なら許せちゃうというか。そんな「隣のお兄さん」的なキャラもいいもんです。カリスマ性は薄れちゃったのかもしれませんが。

しかし、どの曲もホント普通にいい曲なんだよなあ。アルバム全曲も、「普通」としかいいようがない雰囲気なんで、何とも紹介しづらいし、別に人生を変えるようなアルバムでもないんですが、でも、こういうアルバムは持っていて絶対に損はないですよ。あとエリック・クラプトンチャカ・カーンがゲストで参加してます。まぁ、そういう「売り」は、個人的には、どうでもいいんですが。