荒井由実時代は昔から好きでしたが、実はちゃんと聴いていなかったのが松任谷由実時代。大学ぐらいになってふとバーゲンで松任谷時代のアルバムを一気に買い揃えたボクでしたが、結局「なんだ、ユーミンは全然変わってないじゃん」ということを感じました。もちろん、さすがに80年代後半あたりからのシンセ・サウンドには、今もって違和感を感じるのも事実ですが、70年代後半から80年代初頭ぐらいまでのユーミンは、むしろソングライターとして絶好調だったのではないでしょうか。この時期は松田聖子なんかにも曲を提供しヒットさせていた時代ですが、聖子ちゃんも今聴くと、すごくいい。

特に好きなのが「昨晩お会いしましょう」('81)というアルバムで、むしろ今は「ひこうき雲」や「ミスリム」よりも、こっちの方が愛聴盤。「悲しいほどお天気」('79)なんかもそうですが、タイトルからして最高にセンスがいいじゃないですか。どちらも文法的におかしいような気もしますが、まぁ狙いなんでしょうね。

刹那的な夜遊びを続ける都会の女性の心の闇を救いあげるような「街角のペシミスト」、後半に出てくる一瞬のブレイクに胸が痛くなる「ビュッフェにて」、ロマンチックな恋人達の情景を描いた「手のひらの東京タワー」、今だとフリーソウルみたいな「グループ」、などなど名曲ばっかりのこのアルバム。ちなみに印象的なジャケットはヒプノシスだそうです。

それにしても「グレイス・スリックの肖像」は、何という切ないバラードなのでしょうか。イントロのピアノのフレーズからして「やれれた!」って感じですが、何といっても歌詞でしょう。「あなたを忘れてから、いろんなひとを傷つけて、それさえ忘れて私は過ごしてしまった〜」というフレーズに、何故かいつも涙腺が刺激されてしまうのです(恥ずかしい)。内容が深すぎる。というか、やっぱりユーミン天才(ちなみにグレイス・スリックとは、ジェファーソン・エアプレインのボーカルの女性)

とどめに登場するのが大ヒット曲「守ってあげたい」なんですが、恥ずかしながら大学生の時にこのアルバムを聴いた時、「そうか、これユーミンだったんだ」と思ったほど、実はユーミン音痴だったボク。小学生の頃、いつも口ずさんでいたこの曲だけに、「♪〜遠い夏、息を殺しトンボをとった〜」という歌の部分になると、子供時代にタイムスリップするようにセンチメンタルな気持ちになってしまいます。