70年代英国フォークとかトラッド・ロックとか、いろいろ言われているこの時代の一連のアルバムの中でも、徹頭徹尾ストイックという意味では最高峰にあたるアルバムではないでしょうか。同じく名盤と言われているフェアポート・コンヴェンションの「リージ&リーフ」('69)は、一応ドラムがあるだけ、まだそれなりにロックっぽくもあったわけですが、もう「Ten Man Mop」にもなると、「これ、ただのトラッドじゃないすか〜」と誰もが言いたくなるほどキツ〜イ英国臭い民謡ソングばかりで、何ともいえないディープな気分になりますね。

スティーライ・スパンは、元フェアポートのベーシストでもあるアシュレー・ハッチングスが、「いっちょう、本格的にトラッドにどっぷり漬かったバンドやったるかい」と意気込んで作ったバンド。ファーストの頃こそドラムがいて、それなりにロックっぽかった音楽も、セカンドからドラムレスになり、どんどんストイックになってきたところに、さらに研ぎ澄まされたほどの緊張感溢れる内容でファンが仰天したのが、このサードでした。

こうなると「トラッド系は、どうもねぇ」という人には、まったくアピールするものがないかもしれません。しかし「そんな軟弱なヤツ知るかよ」という感じで、ゴリゴリとしたエレキ・ギターやフィドルを鳴らしながら歌い上げる様に、ボクはまるで真冬にフンドシ一丁で雪の上に立ち稽古をする修行僧のような男気を感じてしまうのです(って、女性メンバーもいるけど・・・)

まずは何といってもマーティン・カーシーの声につきますね。これこそ英国フォークって感じの、実に濃い声であります。ちなみにこの人はサイモン&ガーファンクルの「スカボロー・フェア」を彼らより先に歌っていたにもかかわらずS&Gにパクられてしまったという可哀想な人です。ソロとして、それなりのキャリアを積んでいた彼にエレキを弾かせたのはアシュレーの指示なんでしょうか。この選択が、スティールアイ・スパンを、ギリギリ「ロック」という領域に踏みとどまらせている勝因かもしれませんね。さらに女性ボーカルのマディー・プライアーもサンディー・デニーに匹敵するほど魅力的なトラッド声ですし、ピーター・ナイトのフィドル、そして元スウィニー・メンのティム・ハートの弾くマンドリンバンジョーダルシマーが、このバンドならでは英国っぽさを見事に演出しております。

しかし、英国フォーク好きには、どう考えても、こりゃすごいメンツがそろってますなぁ。日本で言えば、友部正人金延幸子細野晴臣が共演したURCのアルバムみたいなもんか(ちょっと違うか・・・)