URCからフォーク・シンガー然として「教訓」などをヒットさせた彼も、実はデビュー前はグループ・サウンズのボーカルなんかもやっていたというロックな人。そうした資質が徐々に現れ出したのが鈴木茂とハックル・バックをバックにしたベルウッド移籍第1弾「アウト・オブ・マインド」(1974)でした。気負いを感じさせる変化ではなく、とても自然体に。

歌詞をメロディーに乗せて歌を作り上げていく一般的なミュージシャンタイプではなく、むしろぶっきらぼうに何でもかんでも言葉を詰め込んでいって、強引に歌として成立させてしまうのが加川良のタイプといえるでしょう。そうした方法論をわかりやすく提示して成功したのが吉田拓郎でしたが、加川良の場合は徹底的過ぎたためか、ちょっとだけマニアックな存在になってしまったのも事実。でも、フラフラと一人旅を続けながら今もどこかで歌い続けているような印象を与えてくれるという点で、彼こそ真のホーボー・シンガーというに相応しいですね。

今回取り上げるのは、なんとメンフィス録音による5作目「南行きハイウェイ」(1976)です。なにしろソウル〜R&Bの地でもあるメンフィスですから、ほとんどオケだけ聴くと、まるでアル・グリーンみたいです。ファンキーな「あの娘に乾杯」なんて、モロにハイ・サウンドの王道ですし。でもソウル・ファンで加川良が好きという人は、ごく少数派なのかも。最初に聴いた時はフォークVSソウルみたいな、水と油っぷりを楽しむ異色作という感じでとらえてましたが、今回ひさびさに聴きなおしたら、えらくハマってしまいました。「まぁ、こんな感じでしょ」という気負いのなさが、実にほのぼのしたムードを醸し出していて、何とも味わい深い「大人の一枚」です。

特に最高なのが7分にも及ぶトーキング・スタイルの「ホームシック・ブルース」です。電車で足を踏んづけてしまった酔っ払い親父との激論をそのまま歌にしたというこの曲は、そのまま「世間のイメージの加川良」と「実際の加川良」とのギャップをユーモラスに比喩したものなのかもしれません。曲の最後には偉大なロック・スターが現れ、加川に「俺の気に入ることを見せてくれ」と言います。すると加川は「だから僕はかつて教訓なんて唄をうたってたんです」と答えるのでした。

ここに登場する偉大なるロック・スターって、やっぱりタイトルから察するに「サブタレニアン・ホームシック・ブルース」を歌ったボブ・ディランなのでしょうか。