井上陽水などでもおなじみの星勝をアレンジャーに迎えて制作したRCサクセションのサード・アルバムが、この「シングル・マン」('76)。アコギ&アコベの音が目立っていたパンク・フォークみたいな前2作にくらべると、音はすっきりと整理されたような印象も与えてくれますが、何しろ当時のRCを包んでいた不穏な雰囲気と言いますか、どうしようもなくヘヴィーな状況が伝わってくるようなアルバムになってます。

忌野清志郎の歌詞も、死んだ友人を歌った「ヒッピーに捧ぐ」や、「うそばっかり〜」というリフレインがどこまでも悲しい「甲州街道はもう秋なのさ」など重く暗い感じなんですが、そこはさすが清志郎。どんなにヘヴィーな状況でも、あの独特のボーカル・スタイルのせいで、ウェットな感じにならずに、ちゃんとロックしてしまうのですから、さすがですよね。しかも、このボーカルが、今日まで一貫したスタイルを保っているのですから、本物は違うということでしょうか。この声があれば、どんな曲調でも、どんなアレンジでも、結局はRC印になってしまうのです。

今でこそ名盤だと思うこのアルバムも、初めて聴いた時は、どこかししら居心地の悪い、どこにも収まることのないような、実にわかりにくいアルバムだったこと事実です。ファンキーな「ファンからの贈り物」、ユーモラスな「大きな春子ちゃん」と、わりと軽い感じでスタートするんですが、続く「やさしさ」の途中あたりから、なんとも不可解なプログレッシブな展開になっていきます。ノイズ・コラージュみたいな「レコーディング・マン」から、ラウンジみたいなピアノが妙にお洒落な「夜の散歩をしないかね」あたりで、アルバム全体が、どんどん清志郎の当時を取り囲むリアルな心情風景を歌にしているものだと聴き手側に認識させるような仕組みに。特にB面などは、かなり暗い。しかし貧乏くさい感じは一切しないのが不思議。ここが並の四畳半フォークとRCの決定的な違いなわけですね。このヘヴィーな状況を通過したからこそ、その後タフなロック・バンド編成になったRCの大成功があるのではないでしょうか。

ちなみに一番好きな曲は「うわの空」。これは本当に美しい。この曲で、なんとなくフィッシュマンズを思い出したりもします。
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