誤解を恐れずに言うなら「和製リトル・フィート」かな。久保田麻琴と夕焼け楽団の「ディキシー・フィーバー」(1977)です。個人的には、前作「ハワイ・チャンプルー」(1976)のトロピカル路線の方がより好きだったりしますが、ストレートでナチュラルなロックに近づいた本作も時とともに味わいが増してきたように感じます。ちなみにどちらもプロデュースは細野晴臣。録音も、やはりどちらもハワイ録音。この2枚は、セットでひとつと考えてもよさそうですね。ジャケは「トロピカル・ダンディ」同様、八木康夫のユーモラスなイラストになっています。

久保田麻琴のボーカルって、これまた誤解を恐れずにいうなら鈴木慶一小坂忠を足したような声なんですね。ふくよかな声で歌っていたかと思うと、時に意外なほどハードに声を唸らせたりもします。さらに英語の歌と日本語の歌との歌い方にギャップがまったく無いというのも驚きです。英語の歌でも「英語うたってま〜す」みたいに構えた感じじゃなくて、実にナチュラルなんですね。

前半は単純明快なハッキリとしたロック・サウンド。ブルージーな勢いで前作よりも男気あふれています。ゲストで参加しているロニー・バロンのキーボードも魅力的です。シングル・カットされた「星くず」なんかは、すごくポップなんだけど渋いリズムの出し方と、ほんわかとしたムードが絶妙にからみあった、素晴らしい楽曲。ボビー・チャールズの「スモール・タウン・トーク」っぽいと解説には書いてありますが、ボクにはマッスル・ショーンズで録音されたポール・サイモンの「ひとりごと」あたりのサウンドにも通じるようなお洒落さも感じます。「星くず」聴きたさに、このアルバムを聴いてると言っても過言ではないほどの名曲。

後半で特にいいなぁと思うのは、お得意のハワイアンとニュー・オリンズとレゲエがまざったような「キャプテン・バナナ」でしょうか。これはまるで「泰安洋行」の世界ですね。もちろん細野&林立夫コンビも参加してます。ダグ・サームみたいな路線を狙った「カウボーイだった頃」も久保田麻琴ならでは。この曲はハーパース・ビザールなんかもカヴァーしてる「When I Was A Cowboy」を日本語で歌ったもの。こうしたスタンダード曲の日本語化も、このバンドならではでしたね。

ラストの井上ケン一がしっとりと歌う「一つだけひかるもの」でしっとりと終わります。細野氏の弾くソリーナのストリングス・キーボードが、ドリーミーで、心地好い余韻を残してくれます。