誤解を恐れずに言うなら「和製ライ・クーダー」かな。久保田麻琴と夕焼け楽団の「ハワイ・チャンプルー」(1975)です。ライ・クーダーもハワイ音楽や沖縄音楽みたいなことをやったりしてましたが、いやいや、この分野にかけては久保田&細野コンビの方がはるかに得意なんじゃないか思いますよ。ほんとライの大傑作「パラダイス・アンド・ランチ」と「チキン・スキン・ミュージック」の間に挟んでも、なんら遜色のない素晴らしき名盤です。細野晴臣プロデュースはもちろん、なんとドラムまで叩いております。「奥の細道」ならぬ「細野奥道」名義になってますが(笑)そしてジャケットのイラストは、なんとスティール・ペダル奏者で、このアルバムでも大活躍している駒沢裕城が描いたものらしいです。こんな絵の才能まであったとは、驚きです。

ハワイアン風味のジャズ・インスト「スティール・ギター・ラグ」(そのまんまのタイトルだな)から「ムーンライト・フラ」というオープニングがまず最高です。後者はルーフ・トップ・シンガーズの「ウォーク・ライト・イン」に何となく似てるんですが、元ネタをバラすように、その曲のカバーが登場。続く「初夏の香り」は、次作収録の「星くず」と並ぶロマンチックな名曲で、「トロピカル・ダンディ」に収録されている「熱帯夜」にも通じるサウンド。そしていきなり沖縄曲「ハイサイおじさん」が登場。今でこそ有名なこの曲、このアルバムが発表された時点では現地沖縄のみでヒットしていたという知る人ぞ知る曲だったのではないでしょうか。ちなみに「泰安洋行」が発表されるのは翌年の76年、喜納昌吉&チャンプルーズのデビュー・アルバムが77年なのでした。

後半はややブルース風味の楽曲が続きます。オリエンタル風味のレゲエ・ブルース「上海帰り」は南正人のカヴァー。「国境の南」では、この時期では珍しく松本隆がドラムを叩いています。「バイ・バイ・ベイビー」はティン・パン・アレイもステージで取り上げていた細野晴臣作品で、小坂忠のアルバム「モーニング」でも取り上げられています。ラストは、またまたロマンチックなバラード「オー・セニョリータ」でセンチメンタルに終わります。脳ミソがトロトロになるくらい甘い曲ですね。

これから初めてハワイ音楽を本格的に聴いてみようと思っている若いロック・ファンも、まずはこのアルバムで耳の準備体操をしてみてはいかがでしょうか?