「ほうろう」('75)って、ティン・パン・アレイの最高傑作であって、小坂忠の最高傑作ではないとボクは思うのです。というか、それほど、あの「ほうろう」のバックの演奏は単なる歌の伴奏を超えてしまった凄まじいテンションだったというわけです。もちろん、その目くるめくようなグルーヴに見劣りしない小坂忠の熱唱も見逃せませんでしたが、もうちょっと穏やかというか、やわらかい感じの「和み」の歌路線のようなものが、実はこの人の本質じゃないのかなぁとも思うのです。

たとえば、この「モーニング」('77)というアルバム。バックは「ほうろう」同様ティン・パン・アレイではありますが、このまろやかで、フワっとやさしく包み込むようなサウンドは何なんでしょう。タイトル通り、まさに休日の朝に聴きたくなるようなアルバムです。そうなんです。このアルバムこそが、ボクは小坂忠の最高傑作だと思います。そしてご本人も「モーニング」が一番好きだと発言してます。この後、ゴスペルの世界にどっぷり漬かってしまう彼が残した最後のポップス・アルバム・・・といいたいところでしたが、その後、またポップス界に復帰したんですよね。

さて、オープニングが、なんと「ほうろう」収録の「ボンボヤージ波止場」というのも驚きですが、アレンジを聴き比べると面白いです。ある種の緊張感がみなぎっていて、静かな印象だった「ほうろう」ヴァージョンに比べると、軽いハネを生かしたグルーヴ感溢れるリズムに乗って歌われる「モーニング」ヴァージョンの、なんと軽快なことでしょう。ボクは断然こっちのヴァージョンの方が好きです。

アルバムは、その後も細野晴臣佐藤博南佳孝といった豪華な面々によって書かれた曲が続きますが、どれもみんないい曲で、なおかつどれも穏やかで優しい雰囲気なのです。マイナー・コードで暗い曲など一切なし。ファンクっぽいのもR&Bっぽいのも全然ありませんが、軽い演奏の中にも実に粘っこい複合リズムで楽しませてくれるのが、やっぱりティン・パンならでは。特にレゲエっぽいリズムの消化の仕方がセンスいいんですよねぇ。

そのレゲエのリズムが、最高にハマってるのが、ラストの「上を向いて歩こう」。一歩間違えるとダサダサになってしまうこのカヴァーが、実に素晴らしい・・・と思ったら、やっぱりアレンジは細野さんでした。