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遠藤賢司という人のアルバムには、あれはいいけどこれはダメみたいなのが、ほとんどない。これだけ活動歴が長いのに駄作がないというのは、ほとんど奇跡としかいいようがないです。頑固一徹な人のように見えて、意外と時代に色目を使っちゃうようなお茶目な部分もあったりで、本人にバカにするなと言われそうだけど、ボクにはとてもチャーミングなミュージシャンに見えるのです。どんなに声を張り上げてシャウトしても、汗臭くないんですよね。テレビなどで歌ってるよう芸能人ではないけれど、かといってアングラなイメージもない。「芸能人」とは名ばかりで、何の才能も個性もないアーティスト達とは違う、本当の意味での「芸能人」が遠藤賢司じゃないでしょうか。
フォーク調の曲で見せるロマンチックな一面も好きでした。若い頃に誰もが経験するであろうモヤモヤした気持ち。狭い畳の部屋の中で、恋人と過ごす日常の1コマを感じさせてくれる「カレーライス」。こんな代表曲もエンケンの真骨頂でした。激しい曲と穏やかな曲の鮮やかな対比。そのどちらも、すごく人間っぽい。フォークでもパンクでもテクノでもプログレでも、何があってもエンケンはエンケンです。何も考えていないようで深すぎる歌詞は、年月とともにボクの胸に響いてきます。
本当は全アルバムをレビューしたいくらいですが、やっぱり「東京ワッショイ」(1978)かな。これは燃えます。セックス・ピストルズとクラフトワークに影響されて爆発してしまったわけですが、何も急激にパンク化したわけでもなくて、アコースティック・ギターを抱えた初期の頃から、歌の求心力は何にも変わってないんですね。そこが凄い。自分が何で何をすべきか、ちゃんとわかっているんです。バックを務める四人囃子の演奏も最高です。
歌舞伎みたいな声が入るオープニングのインスト曲「東京退屈男」から、タイトル曲「東京ワッショイ」への流れで、もうノックアウト。パンク・ロックに誘発されながらも、ウネるようなグルーヴがたまらない。さすが四人囃子。「天国への音楽」は逆にオールド・ウェイブへの追悼歌に聴こえます。「ポール・コゾフに捧ぐ」というクレジットが泣かせます。「哀愁の東京タワー」は完全にクラフトワーク。笑えます。「続東京ワッショイ」「不滅の男」でさらに爆発した後、初期の名曲「ほんとだよ」でマイナー・メロディーをしっとりと歌います。ピアノ曲のインストを挟んで、ついに「UFO」でパンクとプログレが手を結んで大団円に。ラストのインスト「とどかぬ想い」まで、完璧すぎる日本のロックの100点満点アルバムです。