「この作品はNYを拠点にレコーディングしております。2001年9月11日以降の情勢を深く鑑み、制作内容に対しても配慮しました。」

買った時は気がつかなかったんですが、この小沢健二の「Eclectic」(2002)のCDのブックレットの下のほうに小さく、こんなことが書いてありました。このアルバムに漂う沈静したようなムードは「9・11」と無関係ではなかったんですね。

ボクが好きになる音楽というのは、たいてい2種類あります。一つは聴いた瞬間から「やった〜」と声をあげたくなるように興奮してしまうようなもの。もう一つは、最初は戸惑いながらも、どこか抵抗しがたい魅力を感じ、アーティストが意図した何かを探しあてるように何度も何度も繰り返して聴いてしまうもの。小沢健二の場合、前者が「LIFE」、後者がこの「Eclectic」ということになるのでしょうか。

サウンドの印象は、一聴すると、まるで80年代のブラコンのようです。それこそ「ドラム・マシーン」とハッキリ明記したくなるほどのジャストなリズム。80年代のブラコンで使われるようなローランドー808の古い音は、もちろん意識的なのでしょう。やわらかいシンセの音は、奇抜な音も控えめに、シンプルにコードだけを押さえているようです。さらに面白いのは録音スタッフやミュージシャンが全部NYのミュージシャンで、さらにコーラスまでやらせているので、英語訛りの変な日本語になっちゃってるんですね。でも、それが妙に、このアルバムの味になってるという。

歌詞は饒舌な部分がまったくなくなり、どこかエロティックな印象もあるんですが、やっぱりセンスというか、全然下品にはならないんですね。むしろボクは昔の日本文学の恋愛小説でも読んでいるようなストイックさを感じてしまいました。この小沢健二という人の、言葉使いのウマさというか、詩人としての才能を改めて感じます。「LIFE」が古い思い出に変わってしまっても、この「Eclectic」だけは、いつまでも生々しく響いてくれるような気がします。