ボクが曲を作るときに、それが洋楽的になってしまうのは、音楽を好きになるきっかけが洋楽のロックやポップスだったということに尽きます。それでもどこか自分の音楽が借り物じゃないかと言う不安がいつもつきまとうのも事実。日本語でうたえば、それで日本のポップスになるというのは、果たしていいことなのか悪いことなのか。しかし好きなものは好き、作りたいものは作りたいという単純明快な快楽主義で、音楽を作るときに、それを考えすぎることは、足かせになるような気がして、いままで避けていた問題でもあります。

URCレーベルが作られた60年代後期から70年代初頭ぐらいまでは、洋楽と邦楽の間には深い断絶がありました。日本語ロックの原点として、よくジャックスとはっぴいえんどが知られていますが、そのジャックスのリーダーだった早川義夫のソロ・アルバムが、この「かっこいいことはなんてかっこ悪いんだろう」('69)でした。ジャックス解散後、早川義夫はURCのディレクターとして働いていました。

ピアノやオルガン一つでうたわれる歌は、どれも悲しく惨めな歌ばかりです。ほとんどがマイナー調のペンタトニック・コードで訥々とうたわれるわけです。それは当時注目されていたフォーク的なアプローチのひとつでもあったわけですが、もうここにはフォークもロックも何もないような気がします。むしろ古い童謡でも聴いているような気分にもなります。1曲目のタイトルが「わらべ唄」で、2曲目のタイトルが「もてないおとこたちのうた」です。まぁ、そういうアルバムですね(笑)

洋楽を意識したあまりに、オリエンタルな要素を取り入れたというわけでもない。かといって何か奇抜なことをやろうとしているわけでもない。おそらくライブハウスで、いきなり地味な男がピアノの前でこれらの歌をうたっていたら、会場の空気は見事に止まってしまうでしょう。だけど、本当は、誰もが人の観ていないところでは、このアルバムのような惨めな気分になることもあるでしょう。それを公にすることはタブーであるとしたら、それを平然とやってしまったのが、このアルバムなのでしょう。何にもなくなって、何もないところから生まれてくる唄。

このアルバムを大音量で聴くと、近所の人たちは、ボクが歌ってると思うかもしれません。誰にでも歌えるような唄。でも、だれも歌ってしまおうとまでは思わなかったはずの音楽です。