いきなりこんなこと言ってしまうのもなんですが、このジューン・テイバーという英国フォークの女性はサンディ・デニーに似ています。面白いのは、この人のキャリアが、まるでサンディの死後と入れ替わるようにスタートというところです。まるでサンディの魂が乗り移ったかのように。


スプリガンズのマディー・モートンとのデュオ作や、英国の凄腕ギタリスト、マーティン・シンプソンとのデュオ作など話題のアルバムを数々発表しながら、ソロ活動を続けていた彼女。その代表作ともいえそうなのが、この「Abyssinians」('83)というアルバムです。バックのミュージシャンは、それまでの彼女のアルバムでずっと参加していた英国を代表する実力派ばかりで、実に息のあった演奏を聴かせてくれます。


いきなり無伴奏のシンギングで始まりますが、トラッド系なんかが好きな人にはたまらないものがあっても、そういうのに免疫がない人にはキツイのかな。でも大丈夫です。このアルバムは基本的にギター一本、あるいはピアノ一本というシンプルなバッキングの曲で、その合間を縫うように無伴奏の曲が現れるからです。どの曲も、まるで闇夜にそっと息を潜めているような静けさがありますが、それでいて緊張感ばかりではない穏やかさがあるので、実にリラックスして聴けます。この荘厳な雰囲気と大衆的な親しみやすさの同居って、まさにサンディ・デニーみたいなスタンスですよね。


特に印象的なのがリック・サンダースのヴァイオリン。テクニックをひけらかすのではなく、まるで彼女の歌にそっと寄り添うように、そっと静かにメロディを奏でています。さらに面白いのが時折登場するシンセの音。これが控えめながら実にいい味を出しているんですね。シンセといってもピコピコした感じじゃなくて、パッド系のフワフワした音なので、アルバム全体がとても幻想的でスペイシーな感じに仕上がっているようです。


ドラムもベースもなし。それどころか均一化したリズムさえないのです。とにかく徹頭徹尾「余計なことはしない。無駄なことは省く」という姿勢が、なんとも勇ましいではありませんか。