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フェアポート・コンヴェンションの代表作とも言われている「リージ&リーフ」('69)の次のアルバムが、この「フルハウス」('70)。これが前作と全然印象が違うわけです。
なにしろサンディ・デニーが抜けた後なんで、ボーカルが男。さらに、あんまりドスが効いてるとは思えない男どもが3人ぐらいナヨナヨとハモっているもんだから、最初聴いたときは結構拍子抜けしたもんです。しかも1曲目があがた森魚&はちみつぱいの「泣いていこうか、笑っていこか〜」って曲(タイトル忘れた)の元ネタだったんで、そればっかり気になっちゃって、どうにも集中できない。
たとえば同時期のペンタングルとかの場合は「演奏が盛りあがってるなぁ〜」みたいな熱さは聴けばすぐわかるわけです。彼らの音楽はフォークだけでなくジャズやブルースの要素もありますから。即興演奏みたいな部分でグイグイと盛り上がっていくわけです。ところがフェアポートの場合はそうじゃない。ヴァイオリンが民謡っぽいフレーズを延々繰り返している中、ギターがそのメロディをそのまんまユニゾンして、ベースやドラムは、これといったこともせず淡々とリズムを刻んでるわけですから。英国フォーク/トラッドにそれほど免疫のないロック・ファンが聴いたら、ただの「おっさんの音楽」にしか聴こえないでしょうな。実際おっさんみたいな声ですし(笑)
サンディ・デニーの声というのは、どんなに明るい曲調でも寒々とした荒野の風景が見えてくるような感じですが、そうなると「フルハウス」の場合は、おっさんたちが家の暖炉の前で酔っ払って宴会やってるような賑やかさといいますか。まあ、おっさん、おっさんと繰り返してますが、メンバーみんな、まだ若いんですけどね(笑)老成してるなぁ。ある意味、英国のザ・バンドですか。
「Dirty Linen」のヴァイオリンとギターが6/8拍子で延々ユニゾンしながら盛り上がる部分や、「Sloth」の「そこまでタメるか」ってくらいのまったりしたテンポ感など、フェアポートの真骨頂です。実はメロディやフレーズ一つ一つに、異様なまでの気合を入れているのが、何度も聴いているうちにわかってくるのです。というわけで、傑作「リージ&リーフ」同様、結局コレも、聴く度にオイシイ出し汁が出まくる素晴らしいアルバムなのでした。