ハワイのコンテンポラリー・ポップ・ミュージックというのは、音楽に妙な野心とか強欲さのようなものが感じられない気がします。地元のクラブやバーで人気のミュージシャンが記念にそっとアルバムを出して、まぁ後はそれっきり、また普段の生活に戻る、みたいな。このリチャード・ナット(Richard Natto)のアルバム('80)が当時どれほどハワイで売れたのか知りませんが、おそらくこれを発表したところで、彼の生活そのものはたいして何も変わらなかったんではないでしょうかね。大変失礼ながら。


ほとんどがギターの弾き語りなんですが、よく聴くとさり気なくシンセのパッド音がホンワカと音に抑揚を与えています。とはいえ、このラフな演奏な感触は、まるでデモ・テープそのまんま。それが今の時代にはかえって心地好いのですね。このラフなアコースティック感覚は、最近流行のジャック・ジョンソンなんかが好きな若い世代にも受け入れられそうな音楽。


ベン・ワットみたいといわれるアルバムですが、あちらは太陽の光を全然浴びてないような寒々しい「擬似ボサノヴァ」。こちらは太陽の光をたっぷりと浴びたナチュラル・アコースティック・ポップ・ロック。むしろ正反対のような。声も甲高く明るい感じですし、曲によっては随分と陽気に盛り上がってます。このサービス精神も、またハワイっぽいですね。スティーヴン・ビショップのカヴァーを1曲目に持ってきて自分の音楽性のルーツを早々とネタバラシしてしまってるルーズさも、何といいますか(笑)