英国トラッド・フォーク国宝級のアーティスト、マーティン・カーシーのファースト。1965年というとバート・ヤンシュのファーストと同じ年。弾き語り中心のシンプルな内容で、ソロ・デビューにして既に個性が出来上がっている点などの共通項はあるものの、当然のようにやっている音楽は全然違います。


ヤンシュが壮絶なギターテクとリラックスさが同居した変種のブルースだとすれば、カーシーはトラッドを律儀に講義する武道家のような禁欲ムードが漂うサウンド。この背筋を伸ばし一切のダルさを拒否した男気溢れる個性は、いわゆるロック畑にありがちな中性的な要素と対極に位置している孤島のような存在なのかも。


ルックスからは想像もできないような図太くも澄んだ、よく伸びる歌声。シンプルなアルペジオによるギターは当時の時代ならではのデッドな録音によって、かえって幽玄なムードが漂います。サイモン&ガーファンクルが盗作したトラッド曲「スカボロー・フェア」は、このアルバムのヴァージョンがオリジナルといってもよいのでしょう。