Driving in the silence(初回限定盤)(DVD付)
おそらく最初に耳にするなら「似たような曲が多い」とか「退屈で何も印象に残らない」とか「歌が淡白すぎる」とか、そんな感じのアルバムでしょう。しかし、その3つの理由すらコンセプトの一部であるかのように、このアルバムは驚くほど全体が統一されたイメージ。故に、聴けば聴くほど、ある種の凄みを感じさせてくれるのです。上質なミネラルウォーターのように、ジワジワと体の中で音が浸透していき、何度も音源をリピートしても、まるで飽きることがないのです。これもまた「水」のような歌声の透明感ゆえでしょうか。


全曲アレンジとプロデュースを河野伸が担当していますが、気をてらうこともなく、徹底的にオーソドックスでオーガニックなサウンドに徹しています。加えて坂本真綾自身の歌詞も、あえて平坦な言葉を使うことで、時代の気分に流されない、ある種の普遍性を持たせようとしているようです。もともと歌詞の内容を見る限り、かなり内省的な気質の持ち主だとは思うのですが、それを照れ隠しのように「ボク」という表現を使うことが多いです。初心者には、ここが最初の難関。でも聴き続けると不思議とその違和感は消えてしまうのです。


この落ち付いた雰囲気は、やはり震災後の気分も反映されていると思いました。といっても「がんばりましょう」的な応援ソングは一切ありません。どちらかというと去っていた愛しい人を思う気持ちを歌うラブソングがほとんど。その当たり前すぎる歌の主題に、シンプルな人間らしい生き方への問いかけを忍ばせているようです。イメージは「冬」。クリスマスの曲も数曲。それでも現象としての冬のイメージソングではなく、人が物思いに耽ることそのものが人生の「冬」のようなものであると雄弁に物語ってくれるような、そんなアルバム。