全曲PVが作られたという、このアルバム。実はピーター・バラカン氏が80年代に司会を勤めていた「ポッパーズMTV」というテレビ番組で紹介され、その影響で当時買いました。マッド・ジョンソンの怒れる表情と歌声が、自分の青春時代の鬱屈した気持ちを代弁してくれるようで、すぐに愛聴盤になったものです。80年代でしかありえなかった過激なデジタルサウンドという印象は、2002年版のリマスターによって今の時代にも有効な表情豊かな音に生まれ変わったように思えます。


当時はジム・フィータスあたりのインタストリアル系の流れで聴いていた感もありますが、今改めて聴くと過激になったプリファブ・スプラウトといえなくもないロマンチックなメロディの曲もチラホラ。もちろんフィータスあたりにも内包されていた60年代のロックイディオムはサウンドの隙間に無数に散りばめられており、想像以上にオーソドックスなロックでもあったと再認識。メッセージは過激でも、全8曲だれることなくスピード感は爽快そのもの。いまこそ更なる再評価を。


その後にジョニー・マーをギターに迎えた「マインド・ボム」という、これまた傑作を発表しますが、実はこの「インフェクテッド」の時点でも、クリアーなギターサウンドなどに同時代にザ・スミスとも共通するリリシズムを感じます。苦虫をつぶしたようなドスの利いた低音から、切ないハイトーンへと使い分けるボーカルの表現力も見事。後のカントリー音楽への愛情表現は皮肉でもなんでもなく、案外その辺が本人の真っ当な音楽的ルーツだったのでしょう。