たしか日本盤が出たのが1985年ごろだったと思いますが、まだ中学生だった自分が何となくジャケの雰囲気に惹かれて購入した思い出の1枚。ロイド・コールはグラスゴー出身のソングライターですが、そんな情報もないまま初購入した当時は「しまった、ただの地味なフォークロックじゃん!」と、かなり失意したのを覚えてます。ところが物悲しいオルガンやストリングスに耳を奪われると、徐々に曲の素晴らしさを感じられるようになり、気がつくと全曲大好きなアルバムになってしまいました。


このアルバムがデラックスエディションで再発されていたことも先日まで知らずに、あわてて購入したところ。ディスク2のデモやBBCのライブも含めて、やはり胸が締め付けられるような素朴な歌心に何度もリピートしているところ。何か革新的だったり時代を切り込んでいくようなサウンドではありません。何でもサウンドがデジタルに染め上げられていた時代だからこそ、逆に新鮮に感じた人も多かったはず。アズテック・カメラと並んで一部のネオアコファンの涙腺直撃のアルバムなのです。


ロイド自身のボーカルは、いわゆるニューウェイヴにありがちなナルシストっぽいクセのある声と最初は思うかもしれませんが、当時ミュージック・マガジン中村とうよう氏が「ナイーブな人間が素裸で自分をさらけ出しているようなマジメさが感じられる」と評したように、とても誠実な響きに印象が変わっていくでしょう。このザラっとした世界観は、ジム・ジャームッシュの映画「ストレンジャー・ザン・パラダイス」にも通じるような、とは薄汚い部屋の壁を映したジャケの印象からでしょうか。