ベテランミュージシャンにありがちなセルフカバー企画の発表に「元春よお前もか」と最初は思いつつも「サムデイ」や「約束の橋」など大ヒット曲を回避した、ある種地味すぎる選曲に「おや?」。聴いてみて「う〜ん、さすが」。いわゆる楽器の「鳴り」を重視した渋めのバンドサウンドと、呟くように歌う元春の声。それでいて単に渋いだけではない、なんとも溌剌とした勢いも感じます。


今歌うべきリアリティを重視した、と本人が発言している選曲だけに、今回はとりわけ歌詞の内容が心に響きます。初期3作から1曲も選ばれていないだけに、いわゆるトレードマークだった日本語と英語がごちゃまぜという曲は今回はなし。しかし意外に、それ以後の元春の作品の方にこそ、彼らしい日本語ロックのオリジナリティがあったのかも、と今回のセルフカバー集を聴いて思いました。


付属のDVDにはスタジオでの和やかさと緊張感が入り交じった(ほとんど)1発録音の風景の映像が収録されています。ラテンロックに改造された代表曲「ヤングブラッズ」のインストゥルメンタルを重視した盛り上がる演奏には、思わず画面の前で拍手してしまうほど。初期の頃の声と全然違う今の彼の声ですが、この味わいは今の彼の年齢だからこその深み。まだまだ彼の快進撃は続きそうです。