はちみつぱいの唯一のアルバム。とにもかくにも1曲目の「塀の上で」につきます。他の曲はいい意味でとっ散らかったり、いかにも70年代的なユルさで、それこそジャケやタイトルから感じられる下町のメルヘン風情みたいな雰囲気。それも含めてアルバム全体も好きで、名盤と呼ぶにふさわしいものではありますが、それでも「塀の上で」だけは突出して他と何か違う緊張感につつまれているように感じます。


非常にスローな3拍子のシャッフルビートで、シンプルにコードを鳴らすだけのピアノとシンプルなドラム。その行間を埋めるイマジネーション溢れる歌詞。別れの歌でありながら女々しさはなく、むしろハードボイルド。「若さの馬鹿さ空回り」なんて表現、よいじゃないですか。何ともやりきれない青春時代の鬱屈した思いみたいなものが溢れています。歌詞は強烈に70年代を感じさせるのに、曲の印象は、いつ聴いても全然懐かしさを感じさせないのも不思議です。


あと、ドラマーであるカシブチ哲郎(この頃はカタカナ表記)の「釣り糸」も良いですね。途中の場面展開のような間奏など書き割りの風景が見えてくるようです。当時の漫画とロックは、とても近い距離にあったんだなぁと感じさせてくれます。その後に発掘されたライブ音源ではファンキーな展開も多く、あともう1枚スタジオアルバムを残してくれたらよかったのになぁとつくづく思います。