ジェノビア・ジーターは、いわゆるゴスペルからの転向組。サヴォイからゴスペルアルバムを発表後、RCAに移籍。しかし残念ながらR&B作品はこれ1枚のみ。その大らかな歌いっぷりと曲の良さで同時代のプラック・コンテンポラリー系のアルバムの中でも群を抜く完成度高いアルバムです。A-3でデュエットしているグレン・ジョーンズと後に結婚し、そのコーラス組に収まってしまったらしいのですが、もうちょっと自身のアルバムも発表して欲しかったところ。ソウル評論家の鈴木啓志氏などは「80年代最高の女性シンガー」とまで評価しています。


そのグレンとのバラード「Together」は、イントロのシンセからグッと引き込まれる名バラード。グレンも確かに美声ではありますが、やはりジェノビアの歌の方に惹かれてしまいます。とにかく上手い。大袈裟に歌い上げないのも魅力的。ヒューバート・イーヴスなどNYの一流どころがバックアップしたサウンドプロダクションもさすがの完成度。メリッサ・モーガンらが制作した「All Of My Love」など、これぞ80'sブラコンの極地ともいうべきメロウさにクラクラしてしまう名曲。ラストのアレサのカバーもいい。この曲のみゴスペルっぽい感じ。


この頃のソウルミュージックは完全にデジタルサウンド全盛で、当時の印象としても耳に痛いようなバキバキのドラムサウンドが主流でした。当時の自分の感覚としても、こういうブラコンのたぐいは絶対に好きになる音楽でもないと思っていたものですが、この年齢になってすっかりハマってしまうのですから音楽は面白い。よくよく聴けば同じ音色のデジタルなドラムやシンセでも、ノリの良さやニュアンスによってセンスの分かれ道がハッキリ出てしまうようで、ブラコンといっても単純に一括りできない奥深さがあるようです。