ジャズのアルバムには、あえてテナー・サックス奏者が2人いるというダブル・テナー作品というのがあり、このピート・クリストリーブ&ウォーン・マーシュの「アポジー」もそんなアルバムのひとつ。このアルバムがロック・ファンにとって興味深いのはプロデュースをウォルター・ベッカードナルド・フェイゲンが手がけているというところでしょう。ちなみにスティーリー・ダンの「ディーコン・ブルース」で印象的なサックス・ソロを吹いているのが、まさにこのアルバムのクリストリーブその人。


録音が1978年というから時期的にもまさに「彩(エイジャ)」直後。時代はまさにフュージョン全盛期でありながら、そのシーンに多大な影響を及ぼしたはずのダンの2人が、このようなピアノ・トリオをバックにしたオーソドックスなジャズ作品を制作するというのも、ちょっと彼ららしい反骨精神なのかも。しかし内容は非常にオーソドックスなハード・バップ・作品。ダブル・テナーという音がぶつかりやすい編成ながら、テーマやソロの振り分けなど構成も非常によく練られています。


レコーディング・エンジニアはダン作品でもおなじみの名手ロジャー・ニコルス。バンドが繰り出す音の生々しい音質の良さは保証されたようなもの。更にピートが敬愛し彼の先輩格にあたるベテランのマーシュとの共演ということもあり、世代や個性による独特のフレージングの違いの妙が同じテナーという楽器だからこそ浮き彫りになって実に面白いです。クールなマーシュとホットなクリストリーブ、という感じ。廉価盤で発売された日本盤CDにはLP未収録の3曲のボーナストラックが入っているのでオススメ。