この「マルカート」('99)は、何だか懐かしい思い出の一枚。ボクが一緒にプロデュースをしたアルバムなんですね。その昔、ある音楽事務所でデモ・テープを聴いて、もうイントロ30秒ぐらいで気に入って「ボクが絶対プロデュースします!」って感じでした。アコースティック系の女性ボーカル物なんて、それこそ山のようにありますが「いい曲」を作る人は、本当に限られていると思うのですよ。でもマルカートのタテヤマユキは、本当に「いい曲」を書くんです。マジで尊敬してます。

下世話な表現かもしれないけど、矢野顕子のような才気あふれる抜群の曲作りと、大貫妙子的なまろやかな感性が合わさったというか。それでも最終的には「マルカートの世界」としかいいようがないオリジナルなものを感じます。ユキちゃんの歌声やアコーディオンは、そよ風のようにさらっとして誰が聴いても心地好いと思うんです。

でも、最初のミーティングのとき、ボクは大遅刻してしまったのですよ。あぁやばい、怒ってるだろうなぁ、ヘタしたらクビだなぁと思ったら、ユキちゃんの、あの笑顔でしょ。もう、ニコニコしてるわけですよ。あぁ「いい曲」だけじゃなく「いい人」なんだなぁって。こういう人がいるってことが人間国宝級ですね。セコセコと生きてる自分が悲しくなります。まぁ、内心は怒ってたかもしれないけど(笑)

その後、ユキちゃんとは、ライブを一緒にやったこともありました。で、「出会いと別れ」って曲をリハーサルで初めてやったとき、ボクは不覚にも泣きそうになったんですよ。でもリハだし(笑)友達もいるんで恥ずかしい。「いやぁ、いい曲だねぇ」とかいってその場をごまかしたけどね。何だか、その曲を聴いてたら、今まで自分が出会ってきて、いつのまにか離れ離れになってしまったいろんな人のことを思い出してしまったんだな。

ボクは、その曲を聴いて思ったんです。ユキちゃんは、いつもニコニコしてホンワカした感じだけど、絶対に辛い事や苦しいことを数多く経験しているはずなんだと。だけど決してそれを表には出さない。でも歌の中のどこかに、そうした感情も隠している。きっとマルカートが、そうやってオブラートに包んだ「悲しみ」を、あの時ボクは、一瞬垣間見てしまったんだと思う。

と、さんざん書いて、その「出会いと別れ」は、これには入ってないんだけど・・・。でも「雨あがり」とか「こもれび・まなざし」とか泣けるよねぇ。マルカートのアルバムは全部良いけど、やっぱり自分が関わったこの盤に思い入れが。しょうがないでしょ、こればっかりは。

マルカート(http://www.geocities.jp/marcato_marcato/yukiutau/