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「秋の夜長のシンガー・ソングライター」という感じで、ポール・パリッシュ(Paul Parrish)の「Songs」('71)というアルバムでも取り上げましょう。こんなの知らないよという人がいても当然ですよね。たしかCD化されてないような気がしますし(されてたらゴメンなさい)、さらには、この人の経歴が、ネットを調べても出てこないというマイナーっぷり。同時期のワーナーからはドゥービー・ブラザーズやリトル・フィートがデビューアルバムを出していた頃ですが、彼らのように有名にはなれませんでした。
彼は70年代後半に、もう一枚アルバムを出してます。そちらは日本盤LPが出ていて、ボクも持っていたはずなのに、レコード棚を探しても見つからない。その日本盤の解説でも参考にしようと思ったのに・・・。あと60年代後半には「サージェント〜」風のポップ・ソングを歌っていたそうですが、こちらはいまだに入手できず。というわけで、ボクにとっては、この「Songs」一枚で終わってしまった人。ワーナーから発表されたアルバムなので、「名盤探検隊」のシリーズあたりで再発CD出るかなぁと思っていたけど、結局出なかった。ただ、ソングライターやアレンジャーなど裏方での音楽活動をメインにしていた人かもしれません。たまたま前日に聴いていたセヴリン・ブラウン(ジャクソン・ブラウンの兄だっけ?)のLPに、彼のアレンジした「Sister」という曲が入っていましたから。
ボクが高校生の頃に買ったピーター・ゴールウェイのファーストLPは日本盤でしたが、その解説で「もうひとつの地味なLP」と紹介されていたのが、この「Songs」でした。そしたら、その後すぐに、このアルバムをレコード屋で見つけたんですね。全部聴き終えても「確かに地味だなぁ」という印象はあれど、クラシカルな雰囲気さえただようドリーミーな感じは、とてもボクの好みでもありました。「Pink Limousine」なんてシャッフルの曲を聴いてたら、ソングライターとしても抜群のポップ・センスを持ち合わせているだろうはずの彼なのに、ここではわざと「地味」に徹しているような感じさえします。70年代初頭というのは、どこかそういう「60年代の夢破れた」という感じの悲壮感が漂うSSWアルバムが、有名無名を問わずたくさんありました。まるで1人ビージーズのような物悲しい雰囲気のこのアルバムを聴いてると、ボクにはジャケットの彼の表情が泣いているようにも思えてきます。
彼の声は、とても柔らかくやさしい。そして言葉ひとつひとつを丁寧に歌っています。きっと彼は有名になるためにこのアルバムを作ったんじゃなくて、誰か愛するたった一人の人間に対して作ったものなのではないかと想像してみたりもします。難しいことは何もいえないけれど、ボクはこのアルバムが昔からずっと好きでした。彼が遠い国のどこかで、この記事を見つけて喜んでくれることを願ってます。