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女性のロック歌手が歌うバラードみたいなものが苦手だったりするんですが、どういうわけかカーラ・ボノフという人だけは、こう胃にもたれないというかサラっと聴けてしまうんですね。何かソングライターとしてずば抜けた個性がある人は思えないし、まぁ「普通」といえば「普通」なんですが、この普通さは、実はすごく奥が深いんじゃないかと最近気づき始めたのです。それは彼女のベスト盤「オール・マイ・ライフ」(写真)という16曲入り(日本盤は18曲)を買って聴いてからでした。
実は彼女の大ヒット・アルバム「ささやく夜」('79)は中古屋のバーゲン・コーナーの常連だったので、100円ぐらいで買って一度聴いて「別に普通。どうってことないなぁ。」と一度は棚にしまったままだったのです。ところがしばらくして、そのアルバムのタイトル曲「ささやく夜」が、友人たちと騒いだパーティーの帰りの車の中でふとラジオから流れた時に、なんとなく癒されたような気持ちになって、それからずっとカーラ・ボノフという人が気になりだしたのです。
その後、アルバムを安く見つけてはボチボチ買っていたら、どれも全然変わんないんですね。相変わらず、そこそこのアップ・ビートの軽いロックン・ロールと、ピアノの弾き語りを中心にしたバラード。歌詞は振られた女性か、恋する女性の歌。あるいは夢破れて後ろを振り返るような歌、未来への希望を歌った歌。つまりは、多くの平均的なアメリカの女性が人生の中で出会う当たり前のようなテーマばかりなのです。彼女の持つ大衆性はまさにそこにあるのですが、かといってスーパースターという感じでもない。ファッショナブルなことや時代のトレンドみたいなものに無関心で、ただただ一直線に自分の音楽だけに向かっているような印象がずっとあるんですね。このベスト盤は1973年から1995年まで幅広い年代から集めた楽曲にもかかわらず、この全体を包み込む統一感は見事。
できれば日本盤を買ってみてください。彼女自身がそれぞれの楽曲についての語ったコメントがついたライナーを読みながら、さらに訳詞を見ながらじっくりと夜更けに寝る前に聴いてみることをオススメします。彼女の歌は、何よりも夜が似合う。仕事に疲れたり、恋人とケンカしたり、いろんなことに疲れたときにこそ、彼女の歌は聴き手にそっと勇気をくれるのではないでしょうか。
そうそう、日本盤のみ、ボーナストラックが2曲入ってるんですが、そのうちの1曲がジャッキー・デシャノンの「When You Walk In The Room」のカバーというのも素敵です。この曲は、誰がカバーしても、名曲なんですが、もちろんカーラ・ボノフのヴァージョンも最高です。