マイケル・マクドナルドが加入してからのドゥービーは、それまでの豪快なギターをフューチャーした「アメリカのトラック野郎みたいな音楽」(とんちゃん談)から一変、都会的といえるブルー・アイド・ソウル風味をまぶした洗練されたポップ・グループに変化していきました。そうした試行錯誤の集大成が、この「ある愚か者の場合(What a Fool Believes)」のような気がします。時は1978年。マイケルとケニー・ロギンスの共同作による大ヒット曲です。ロギンスというと「フットルース」が有名すぎて、かえって過小評価されているような人ですが、ソングライターとしては、意外にもなかなかに洒落たセンスを持ち合わせているミュージシャンです。


軽快なミディアム8ビートではありますが、どこかラテン的なニュアンスも感じる軽めのビートなのです。それは何といってもキーボードの使い方でしょう。ロックにはギター・リフというのがよくありましたが、ここでは「キーボード・リフ」で曲をリードしていくのが新鮮でした。それまで豪快にギターを数人で鳴らしていたドゥービーのこの変化が、まず冒険です。そしてベースとギターは、じゃあ脇役かというとそんなことはなく、静かにユニゾンでフレーズを裏メロのようにオブリガードしていくのです。これが先に述べた「ラテン的」なものの印象につながるような気がします。鳴らす音ではなく「抜いた音」でグルーヴを作るというスカスカ感が実に爽やか。


さらに一瞬落ち着いた後、4分打ちのハンド・クラップ。そしてタイトル・フレーズとともに転調して盛り上がるという、まさに「上手い!」としかいいようがないアンサンブル。これはスティーリー・ダンすらも「ヤラれた!」と悔しがったんじゃないかなぁ。ちなみに「ガウチョ」収録の「Time out of mind」は、似ているとはいわずとも、この曲を意識した感じがありです。


このように、この曲の影響はものすごくて、その後のポップス・シーンで似たような曲が続々生まれたといいます。近いところで、ロビー・デュプリーの「ふたりだけの夜」(日本でも大ヒット)が有名ですが、意外なところでノーランズの「恋のハッピーデート」とか(笑)いや、似てると思うんだけど。