昨年、各方面で話題になり評判を呼んだブライアン・ウィルソン版「スマイル」。今まで聴いてきたブートが一気に色褪せるほどの圧倒的な完成度で感動したわけなんですが、それはいいとして、みなさん何か忘れてはいないでしょうか。そうです。ビーチ・ボーイズの「スマイリー・スマイル」('67)のこと。究極ともいえるブライアン版「スマイル」の後、今となっては非常に肩身の狭いような不憫なアルバムみたいになってしまいました。しかし面白いことに、最近のブライアンのインタビューで、彼自身「スマイリー・スマイル」を「あのアルバムは気に入っているよ。自分のフェイバリットの1つだ」と発言していたのが意外でした。「暖かいそよ風のようなアルバム」。ブライアンは、そんな表現をしていました。

ご存知でしょうが、この「スマイリー・スマイル」というアルバムはスマイル・プロジェクトが挫折した後、彼らが小さなスタジオで軽い感じで作った「小型版スマイル」のようなもの。ジャケットをよく観ると、オリジナルの「スマイル」のジャケットにあった、あの「スマイル・ショップ」の絵が、森の奥の方にひっそりとあるではありませんか。

このアルバムを初めて聴いたのは小学生の時でしたが、もちろん当時はさっぱり理解できませんでした。圧倒的にビーチ・ボーイズといえば初期の明快なサウンドが大好きでした。しかし、その後、自宅録音など自分で音楽を作る事に夢中になっていった頃に、どんどん「スマイリー・スマイル」の評価が自分の中で上がっていったのです。

そう。このアルバムを理解する手がかりは、この「宅録」っぽさにあったのです。いいかえればアマチュアっぽさといってもいいかもしれません。ボーカルのマイク音など、エコーの少ない「オンマイク」状態だし、楽器間のバランスも不自然。ドラムがない曲。展開のないまま終わるスケッチのような曲。楽曲の完成度などおかまいなしに、テキトーに始まってテキトーの終わる曲。ここでビーチ・ボーイズが大切にしていることは、曲を曲として完成させる事ではなく、何より全体を包み込むムードなのです。時代的にはサイケデリックが流行だったのですが、そういう派手なギミックに走らないところも好感もてます。

唯一完成度が高い楽曲が「グッド・バイブレーション」と「英雄と悪漢」という、「スマイル」を代表する2曲だったことが、かえって「スマイル」伝説を加速させ、逆にこのアルバムを地味な存在にさせてしまったかもしれません。でも今となっては、この2曲以外の「小粒」な作品たちがとても素敵に思えます。サイケデリック学生運動的な「集団」のパワーを発散していたのに対し、ここでのビーチ・ボーイズは、いち早く70年代的な「個」への足がかりを作っていたのかもしれません。このアルバムは、「スマイル」のようなアメリカン・ミュージックを総括するようなスケール大きな作品ではありませんが、ボール・マッカートニーのデビュー盤や、スライの「暴動」あたりにも通じる「小粋なプライベート感覚」を先取りしたアルバムかもしれませんね。

本日の更新「ショック太郎のマテリアル・ワールド」

何故か一部で盛り上がっている(!?)エル・レーベル特集、その1です↓
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