昨日の南佳孝に引き続いて、レンタル・レコード時代のアイドルを紹介しましょう。村松邦男です。元シュガー・ベイブの彼は、ギタリスト、作曲家、アレンジャーとしても有名なスタジオ・ミュージシャンです。しかし我々世代にとっては、何と言っても80年代に彼が残したソロ・アルバムの数々が印象深い。南佳孝のように渋い男路線ではなく、もうミーハーなくらいに明るくポジティブなポップ路線。正直トシちゃんあたりが歌ったほうがいいと思ったくらい。でも、大好きでしたね。ギタリストといってもギターをバリバリ弾くわけでもなく、職人的なツボをついた明快なアレンジと、砂糖菓子のような甘く甲高い歌声が特徴的でした。ソロになって爆発的に売れたという感じでもないのですが、80年代の和製シティ・ポップを代表するアーティストなのは間違いありません。

まず1stアルバム「Green Water」('83)(写真)から。お金も時間もじっくり使って録音されたのでしょうか、全体的にブラスやドラムの音も鮮やか。印象的な曲は、まずシングル・カットされた「僕のガールズ」。後期ドゥービー・ブラザースを極端にミーハーにしたようなメチャメチャポップなモータウン風ナンバーです。山下達郎が詞を提供した「フェアリー」は、10ccの「I'm Not In Love」思わせる幻想的なバラードでウットリ。他にもサヴァンナ・バンド風、ビートルズ風と、とにかく明るいナンバーが多い。アルバムでは1曲しか歌わなかったシュガー・ベイブでは地味な印象だった人なのに、ここではとにかく元気に弾けまくっていますね。

「Tourist」('84)は夏を意識した4曲入りのミニ・アルバム。さらに爆発したポップ加減は、正直マッドな印象さえあります。かなりブっ飛んでますね。すべての音のメーターが振り切ったようなアレンジがスゴイです。1曲、ビリー・ジョエルの「アップ・タウン・ガール」にソックリな曲がありますが、まあご愛嬌です。

2ndアルバム「ROMAN」('85)は、1stよりもグッと村松邦男のポップな個性が現れた名盤。「アルバム200選」にも入れたくらい大好きなアルバム。というのも、本当にダビングしたカセットを何回も何回も聴いていたので、今聴いても全曲歌詞カードなしで歌えます(笑)

3rdアルバム「アニマルズ」は、いきなりトッド・ラングレンの完コピで始まりドギモを抜かれましたが、今までやらなかった路線の楽曲を集めたようなアルバムで、彼自身が音楽を始めるルーツになったようなロックン・ロール調の曲など、マニアックながらも面白いアルバム。その後、インディーズでクリスマス向けの12インチ・シングルを出しました。

彼の残した80年代のアルバムたちは、今ではCDでも廃盤のようですが、どうやらベスト盤CDが手に入るようです。未聴の方は、ベスト盤を聴いて、気に入ったらアナログを探すのもいいかもしれませんね。もう一度、村松邦男さんには歌うソロ・アルバムで復活してほしいです。あのシュガー・ベイブのキラキラ感を受け継いでいるのは、山下達郎でも大貫妙子でもなく、まちがいなく村松邦男の歌声なんですから。