さて、何故かシリーズ化しそうな予感すらある「レンタル・アイドル・シリーズ」。自分が10代の時、貸しレコード屋で借りて好きになったアーティスト達を紹介するわけなんですが、南佳孝村松邦男に続いて紹介するのはパール兄弟。彼らのデビュー盤「未来はパール」('86)です。

自分にとってパール兄弟は、何といってもサエキけんぞう氏の歌詞の魅力に尽きます。80年代のニューウェイブ系のアーティストで、ちょっと歌詞が気になったりするのって、大抵サエキけんぞうが提供した詞だったりすることが多いんですよね。そのくらい個性的で面白い詞を書く人です。松本隆が風景描写や心の描写をじっくり描く物語風なのに対して、サエキけんぞうは、もっと感覚派。そして歌詞全体のバランスではなく、それこそ1行やワン・フレーズのひらめきに命をかけるんですね。おそらく外国語に訳することがまったく不可能な「日本語ならではの面白さ」を追求している歌詞といってもいいかもしれません。

サエキけんぞうパール兄弟以前に在籍していたハルメンズというニューウェイブのグループがありました。このバンドも面白いバンドでしたが、かなりマニアックなので、ほとんど一般ウケすることなく解散してしまいました(その分、今ではカルトなバンドになってますが)。パール兄弟は、ハルメンズよりも、もっとロックバンド的な肉体感覚があります。メンバーも魅力的です。ギターは元ビブラストーンズの窪田晴男。それこそ当時のBOOWY並にソリッドなギター・プレイを聴かせてくれます。ベースは、今ではスタジオ・ミュージシャンとして有名なバカボン鈴木です。

この「未来はパール」は、彼らの最高傑作かどうかはともかく、一番最初に借りた彼らのアルバムなのは間違いありません。ダビングしたカセットを何回も聴いたので、一番印象深いアルバムです。彼らの曲の中で一番大好きな「バカヤロウは愛の言葉」という曲が入っているだけで名盤といってもいいくらい。ボクは、この曲こそ究極ラブソングだと思っています。
 「卑劣な夜に隠しきれないtrauma 胸が危ない 情けが欲しいんだ無性に
  話につまる言葉足りないつきあい 顔が危ない 手術をしたいんだ渋谷で 
  バカ野郎っていってくれよ もっと・もっといってくれよ
  この野郎っていってくれよ きっと・きっといってくれよ」
           ー「バカヤロウは愛の言葉」ー
こんな歌詞、サエキけんぞう以外の誰に書けるというのでしょう。これほど痛々しくも共感を呼ぶラブソングを他に知りません。こんな歌のように、別れたくても別れられないような恋人達が登場する歌は他にもあります。それが「しがらみクラブ」という曲。タイトルだけでスゴイですね(笑)途中で出てくる「♪性格変わらないで〜」ってフレーズが当時は可笑しくてしょうがなかったんですが、自分も恋愛や別れを経験したりすると、これらの曲の歌詞が、すごくリアルに響くんですよね。ふざけたりおどけているようで、実は大人の究極の愛を表現しようとしていたのがパール兄弟というバンドの本質だったのかなぁと、今では思ってます。