高橋幸宏ではなくユキヒロと名乗っていた頃の彼のデビュー盤「サラヴァ」('78)でも取り上げましょうかね。これはどちらかというとYMOというよりも、むしろ彼がメンバーだったサディスティックス(ミカ・バンド)の流れにあるというか、つまりは加藤和彦的ともいうべきヨーロピアン・センスが炸裂したジャジーでオシャレなサウンドになっています。当然生演奏が主体なわけなんですが、ドクター・バザーズ・オリジナル・サヴァンナ・バンドとかを彷彿とさせるビッグ・バンド・サウンドは、当時の日本では随分と最先端だったのではないでしょうか。というか、ここまで洋楽的に洗練されたポップスというのも珍しかったと思います。アレンジャーの清水信之氏も「正直YMOのデビュー盤より衝撃だった」とコメントしておりますしね。

「ボラーレ」や「ムード・インディゴ」といった大スタンダードと自作曲がまるで違和感なく並んでいるのも、彼のバランス感覚といいますか、プロデューサーとして自分の持ち味というのをよくわかっているなぁという感じがしますね。正直彼のボーカルは固い感じなのですが、豪華な演奏にのってもひ弱さを感じさせません。いきなりドラマーのソロで、ここまでボーカルをフューチャーしているというのも大胆ですね。

アレンジは坂本龍一ですが、完全にラテン・テイストを生かした職人的なビッグ・バンド・サウンドで、そういう意味では同じく彼がアレンジを手がけた南佳孝の「サウス・オブ・ザ・ボーダー」('77)にも近いものがあります。やっぱりYMOというバンドはニュー・ウェイヴ的な素人1発芸とは違う、実に深い教養に裏打ちされたポップスだったということが、YMO以前の彼らのソロ・アルバムを聴く度に再認識するわけですね。

YMOとかテクノとかにはまったく興味がなくても、この「サラヴァ」は好きという人、結構多いような気がします。タイトルからピエール・バルーを連想しますが、もちろんその後のバルーの日本制作アルバムにもYMOファミリーが参加してます。この「サラヴァ」で展開されるヨーロピアン・テイストは、決して使い切りの方法論ではなくて、YMOの音楽性に脈々と受け継がれていくわけです。それにしても、彼の容姿はこの頃から全然変わっていませんねぇ(笑)