はっぴいえんどがすごいのは、大瀧詠一細野晴臣鈴木茂松本隆と、このメンバーの誰か1人抜けてしまっても成り立たないほど、それぞれのミュージシャンが音楽性を決める重要な役割を担っているという点ですね。まさに最強のメンバー。そのそれぞれが持てる力を最大限に発揮し、日本のロック黎明期に打ち立てた金字塔とも言うべき大傑作が、このセカンドの「風街ろまん」('71)です。

小学生の時は、相変わらずピンときませんでしたが、もう高校生ぐらいのときにはズッポリ「風街ろまん」にハマちゃいました。きっかけは「風をあつめて」という曲。細野晴臣のペンによるこの名曲は、ジェームス・テイラーを思わせるアコースティック・ギターが印象的なフォーキー・ソングでしたが、自分もギターなんかを弾き始めるようになって、ふと、この曲を自分で弾き語りしてみたくなったのです。細野さんの声はキーも低めで、ボクにはとても歌いやすかったのですね。あんまり上手くありませんでしたが、こっそりとカセットに弾き語りを録音したりしてました。

で、歌っているうちに、もう松本隆の歌詞が自分の当時の心境をぴったり当てはまってしまったのですよ。もう何てすばらしい詞なんだろうと。それこそ夏目漱石のような日本文学を読むくらいの格調の高さを感じたくらいです。それまで日本のロックを聴いても別に歌詞なんてどうでもよかったのですが、はっぴいえんどは、初めてボクに「歌詞」というものを目覚めさせてくれたバンドです。ボクが曲だけでなく歌詞も書いてみようと思ったのは、まちがいなくはっぴいえんど、つまりは松本隆の影響に他なりません。「風街ろまん」は、一度音なしで歌詞カードだけでも読んでみてください。違った感動がありますよ。

いや、もちろん素晴らしいサウンドあっての歌詞なんですけどね。大瀧詠一は、前作の叙情的なフフォーク・ロック路線から飛躍し、ハードでメタリックな曲から、トニー・ジョー・ホワイトみたいな泥臭いスワンプまで、独特のヒネたユーモア・センスを炸裂させています。あの70年代の一連のアクの強いナイアガラ・サウンドは、むしろここがスタート地点だったのかも。更に急成長したのが細野晴臣で、歌声は一層落ち着いた感じになり、アコースティック・ギターをメインに、実にメロディアスな曲を連発してくれます。そして、何よりも、このアルバム全体に流れる「懐かしい東京」という雰囲気が、どんな時代に、どこに住んでいる人にとっても「郷愁」を誘うという点です。このアルバムを聴く人それぞれが、自分にとっての「風街」という懐かしい過去を探すことでしょう。