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「ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー」('79)は「ライディーン」や「テクノ・ポリス」といったシングル曲の大ヒットのおかげでYMOを代表するアルバムとして認知されましたが、正直「認知されすぎた」おかげで、このアルバムの音楽の革新性そのものに触れるような記事があまり見当たらないのも事実です。たしかに、このアルバムで登場した「人民服&テクノ・カット」というファッションのインパクト、小学生をも巻き込んだブームなど文化面でも語ることが多いアルバムなのも事実なのですが、音楽的にもファーストの時よりも随分と変化しているように思えます。というか、YMOは決して「同じアルバムも2度と作らない」という事を今回再認識しましたね。YMOが素晴らしかったのは、この「変化すること」を徹底させたという部分でしょう(だから解散してしまったともいえますが)。
ファースト同様のシンセ・サウンドが全面に繰り広げられてるとはいえ、ほとんど「ディスコ」というよりも「ロック」的な8ビート目立ってきました。YMOと同世代のミュージシャンが、ほとんどパンク/ニューウェイヴに目を向けず、むしろフュージョン方面へ流れる事が多かったのに、YMOの視点は完全に英国のロンドンに向いています。しかし、ここがYMOの面白いところなのですが、彼らはフュージョンの方法論も充分に理解していることと、演奏能力がズバ抜けて上手かったことなど、完全に「捨て切れなかったニュー・ウェイヴ」というところでオリジナリティが生まれてしまっているのです。よくYMOをリミックスしたりカヴァーしたりするミュージシャンがいますけれど、たとえば「テクノ・ポリス」に聞かれるフュージョン的な和声感覚はほとんど再現されることもありませんでした。このフュージョン的な部分を嫌うテクノ系のミュージシャンは「ソリッド〜」を苦手としているのか、ほとんど現在、この「ソリッド〜」のような音楽をやっているテクノ系ミュージシャンはいません。逆にこの音楽は同時代の「歌謡曲」に圧倒的に影響を与えたという点が面白いところです。そのあたりの歌謡界の試行錯誤を捉えて編集された「イエローマジック歌謡曲」や「テクノマジック歌謡曲」というオムニバスを聴くと、さらにYMOの面白さを理解できるかもしれません。
坂本龍一が武満徹に影響を受けて作った「キャスタリア」のような不気味かつムーディーな曲。ディーボのようにバラバラに解体された「デイ・トリッパー」。ギターで参加したシーナ&ロケッツの鮎川誠の存在が細野晴臣のロック魂の火をつけたこと。高橋ユキヒロのヴォーカルが新たなYMOの個性となったこと。それらの要素すべてを「テクノ」という表現で詰め込んでしまう強引さがYMOの痛快さでした。
レコーディング終了直前に発売されたウルトラヴォックスのアルバムを聴いて細野晴臣はベースの音を全部作り変えたという伝説もあります。この判断はプロデューサーとしての彼の確かさを証明しています。なぜなら、このアルバムで聴かれるシンセ・ベースの太い音が無ければ、テクノ・ポップとはいいがたい音楽になっていたかもしれないのですから。