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「花に水」とは、なかなか洒落たタイトルですね。YMO散開後の84年に発表された細野晴臣のカセット・ブック作品で、音は前年に無印良品の店内BGM用に制作されたものらしい。カセットのA面とB面に、それぞれ長い曲が1曲づつという構成で、それぞれ「あなたについてのおしゃべりあれこれ」と「都市にまつわる生長のことなど」という意味深なタイトルがつけられています。
何も考えずシンセサイザーの前で即興的に作られた、いわばアンビエント作品の先駆け。まあ、音だけ取り上げて積極的に評価することは厳しいとは思いますが、付録につけられた本を読みながらのBGMには、なかなか良い感じかもしれない。特に「花に水」というタイトルの名づけ親でもある針灸治療師・久保山昌彦と細野の対談は読みごたえあり。
この作品は冬樹社カセットブック・シリーズ「SEED」の第一弾作品にあたるもの。カセット・ブックとは、いかにも80年代ならではの時代の産物ではありますが「本屋さんで音楽を売る」という概念が、当時なかなか新鮮で、この「SEED」のシリーズもボクは毎回買っていました。以後の作品はご覧の通り。
●矢口博康「観光地楽団」
リアル・フィッシュのSAX奏者のソロ。風変わりなポップス満載で実に楽しい作品。本の方は、泉谷しげる、立花ハジメといった人たちとの対談が中心。鈴木さえ子がドラムス参加。
●ムーン・ライダーズ「マニア・マニエラ」
発売中止騒動、CDのみで発売を経て、ようやく85年にカセット・ブック化。本もメンバー全員が執筆。特に鈴木慶一氏の「ハドソン川の月」という短編は面白い。その後、正式にレコード化。
●井上鑑「カルサヴィーナ」
当時ソロ・アルバムを数多く発表していた人気アレンジャー。アート・オブ・ノイズをエスニックにしたような過激なサウンドで、当時CMにも使われた。佐野元春との対談あり。
●南佳孝「昨日のつづき」
ビッグ・バンドを従えた本格的なスタンダードのカバー作品。選曲、内容とも素晴らしい。本の方は片岡義男、松本隆の小説。他に歌詞を印刷したモノクロ写真のポスト・カードが9枚付いている。