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この「S・F・X」('84)というアルバムが発表された頃のミュージック・マガジンのクロス・レビューで、中村とうよう氏が「坂本がソロになるとお芸術っぽくなるのに、細野はテクノ道を突き進んでいる」みたいな発言をしていましたが、当時の自分もまったく同感。YMOがなくなっても、それほどショックは受けなかったのは、その代わりに細野晴臣のいくつかのソロアルバムが、絶対に「テクノ」という欲求に答えてくれそうな予感がしていたから。
「花に水」のようなアンビエント路線ばかりだと困るなぁと思っていた自分には、とにかくこの「S−F−X」は、非常に下世話な言い方をしてしまえば「もしYMOがそのまま続いていたら」を感じさせる音楽といえなくもありませんでした。
しかし、アルバムタイトルが映画などの「特殊効果(スペシャル・エフェクツ)」を意味しているだけに、YMO以上にストレンジで過激な音が炸裂。
まずビート感覚。スタイリッシュなYMO時代とは裏腹に、ほとんどヤケクソとも思えるデジタル・ビートのドラム音が印象的。特に明らかにヒップホップを意識した16ビートが多いのはもちろん、当時自分をビックリさせたものといえば、何と言ってもバスドラムの「ドドドド・・・」という連打音。つまり16ビートをどんどん加速化して、遂には32ビートになったというワケ。ドラムン・ベースに慣れ親しんだ後の世代ならともかく、この時代は、こうした「人力ドラムじゃ絶対に無理」というのがなんて過激に聴こえたことか。
しかし、そんな中で「アンドロジーナ」のようなマジカルなエキゾチック・コードを聴かせてくれる曲もあるのが実に細野晴臣ならではの柔軟さですね。それでも手ざわりはあくまでファンク。サンプリングの大胆な使い方はアート・オブ・ノイズに一歩及ばないものの、楽曲そのものの完成度やうねる様なリズム感覚は、何と言っても細野氏の方が抜きん出て素晴らしい。
アルバム後半では、一種のチルアウト感覚のような穏やかさも。同時に、当時細野氏がハマっていたというホラー映画の影響もあるようで、その不気味な感覚がまた独特。全6曲とボリュームは少なめですが、内容はズッシリと重い。ジャケット・デザインも内容に合っていて好きでした。