イタリアで開催された日本展のために作られた音楽が、モナド・レーベル第4弾にあたる細野晴臣の「エンドレス・トーキング」('85)でした。なんと公園に設置された13体のロボット型の造形物から、3分前後のテープがエンドレスで鳴り続けるというユニークなもので、当然の事ながら13曲収録されています。どの曲も始まりも終わりもない、メロディらしいメロディもない効果音のような不思議な音楽。面白いのは、どの曲も「動物の鳴き声」をテクノ化したような感じだったりするのが、何ともユニークです。テーマは「自然界に生息する音」。そうした意味では「マーキュリック・ダンス」のように自然音を音楽に置きかえるというテーマに近いですが、よりインダストリアルでアヴァンギャルド、そしてあえて抽象的な部分を強調したことで、逆にスリリングな音の戯れが、それこそエンドレスで鳴り続けているようです。

この音楽は、なんとサントラである「銀河鉄道の夜」の録音を中断して、たった一日で作り上げたという信じられないようなスピード録音でした。そうやって、自分自身を極限状態に置く音で、予定調和的な音楽スタイルから一歩踏み出した即興音楽を作ったのでした。つまり、音だけではなく、音を作り出す過程さえもコンセプトにしてしまうというもの。モナドはポピュラー・ミュージック・リスナー向けにしては、かなり実験的なレーベル運動でありましたが、ノン・スタンダードの他のミュージシャンは、割合ポップな音作りをしていたので、細野氏1人だけが「シリアス」に音楽道を追求しているなぁ、というのが当時の自分の感想でした。

この「エンドレス・トーキング」も、もちろんコアな細野ファン以外にはオススメできないハードコアな内容ですが、こうした実験的な音楽を発表していくモナドで培った方法論は、その後の氏の音楽にもきちんと受け継がれているのは、やはり驚異に値しますね。細野晴臣は、いつでも様々な音楽スタイルに挑戦しますが、飽きたら止めるのではなく、少しづつ形を変えて、その取り入れたスタイルを次へ脈々と受け継いでいくのですね。受け止める度量もないくせに、頻繁にウケ狙いで次から次への音楽的スタイルを変えるようなミーハーなミュージシャンとはワケが違うのです。そうした音楽に対する「誠実さ」も、やはりファンの心をつかむ要因なのでしょう。