XTCの中で一般的に一番地味な印象のある「ママー」('83)ですが、ボクは大好きなアルバムなんです。初めて買ったXTCのレコードということもあるのでしょう(中学生の時でした)。それまでのXTCにあったソリッドなライブっぽいのりから、もっとバンド・スタイルを脱却した多彩なアレンジが本当に素晴らしい。それに楽曲から零れ落ちてくるような、どうしようもない「イギリスっぽさ」がたまらないです。ライブではなく、スタジオ作品でこそ本気で勝負しようという彼らの気合が感じられます。音の質感は、他のアルバムと比べると、随分とやわらかいアコースティックな手触りがありますね。牧歌的といってもいい。ニューウェイヴのお祭り騒ぎから早々と抜け出して、スタンダードなポップ・ソングを残していこうと考えた結果なのかも。

このアルバムが当時、地味な印象をあたえたのは、1枚のアナログ盤のLPレコードという収録時間の制約に思われます。当時、ボクはシングルB面のアルバム未収録を聴くためにXTCのシングル盤をコツコツと集めていましたが、そのたびに「こんな完成度高いB面曲を、どうしてアルバムに収録しないんだぁ!」と、半ば怒りのようなものを覚えるほど興奮してましたから。その後CD化された時に長時間収録を生かして、こうしたシングルB面曲を含めて16曲入りになったのは、めでたい限り。そうです。「ママー」はCDという長時間収録が可能になって初めて魅力発揮できたアルバムといってもよいでしょう。

インドの民族音楽みたいなオープニング曲から、ポヨポヨしたシンセ音もたまらないトロピカルな「ワンダーランド」の絶妙な流れ。英国トラッドみたいなフォーキーな曲は「しがない農夫の給料で、どうして愛を養える?」なんて皮肉と悲哀が混じったような歌詞だったり、3拍子なのにロックなギター・リフ、そして開放感あるサビへの流れが絶品な「グレイト・ファイアー」(名曲!)と、出だしの4曲から、息をもつかせぬ展開。その後もサイケ・フォーク、スウィング・ジャズサイモン&ガーファンクルみたいなフォーキーなものと、ヴァラエティたっぷり。

いろんなスタイルに挑戦していますが、結局何しろどれも「曲」がいい。どんなにスタイルや形式だけを取り入れても、最後に残るのは「曲のよさ」に尽きます。多くのニュー・ウェイヴが時代とともに魅力を失っていったのに、この頃のXTCの完成度ときたら、これが今の彼らの「新譜」といわれても通用しちゃうようなクオリティなのですから(進歩がないだけだというツッコミはナシね)