ファントム・オブ・パラダイス
ブライアン・デ・パルマという監督は、編集の鬼といわれているくらい、どの映画も映像のテンポ感に凝っている印象の残る作家ですが、この「ファントム・オブ・パラダイス」('74)という映画には、ほとんど彼の持ち味やセンスがすべて入っている作品ではないでしょうか。生涯観た映画のベスト10にも入るほど、ボクも大好きな作品なのです。
主演と音楽担当をしたのが、俳優でもあり優れたシンガー・ソングライターでもあるポール・ウィリアムスです。映画では悪徳プロデューサー、スワンを怪演してますが、エンディング近くにもなると、独特の悲哀に満ちた、すばらしい演技をしてくれます。彼の曲なくして、この悲しくもおかしいロック・オペラ映画は成立しなかったでしょう。ソフトロック・ファンには「サムデイマン」('70)というアルバムが有名ですし、古くからのロック・ファンには、スリー・ドッグ・ナイトやカーペンターズの一連のヒット曲の作者として有名でしょう。
一方、悪人スワンに、自ら作った大曲だけでなく、身も心も奪われた悲劇の天才音楽家ウィンスローを演じるのはウィリアム・フィンレイ。いかにも性格俳優のような個性的なキャラは、まさに怪人ファントムにピッタリ。彼が復習の鬼に燃えて、舞台をメチャクチャにするシーンは、観ているほうも興奮してきます。さらにウィンスローが思いを馳せるヒロイン役には、ジェシカ・ハーパー。ボクにとっては「サスペリア」で有名な女優なのですが、大きな瞳が印象的で、映画に花を添えてくれます。
謎解きのサスペンスやファンタジー、コメディ、ホラー、パニック、そしてミュージカルと、何でもありの幕の内弁当のような内容は、どんな映画ファンも夢中にさせるほどの圧倒的なパワーを感じます。さらにビーチ・ボーイズのパロディや、シャナナもどきのバンド「ジューシー・フルーツ」、あるいはステージでのグラム・ロックっぽさなど、音楽ファンにもニヤリの連続の映画なのではないでしょうか。
高校生の時、レンタル・ビデオ屋を何件も探して、ようやく巡り合えた喜びと、それを初めて観た時の「スゴイ・・・」という興奮が、今見直しても鮮やかに甦ってきました。これが今や国内版DVDなら999円で手に入るのですよ。まだ観ていないという人は是非この機会に!全音楽ファン必見の映画なのはまちがいないです。