イントロの歌い出し、たった20秒だけで恋してしまった曲。それがアル・クーパーの「New Youk City(You're A Woman)」('71)のタイトル曲です。しかしこれを「紐育市(お前は女さ)」と訳す邦題のセンスもスゴイですよね。「紐育市」って、なんなんでしょうか。何だかわからないけど、日本語訳を見たら、もうこれしかないって感じだったりするんですよね。つまり「ニューヨーク」ってのは、あばずれ女であると。「まったく気が滅入るぜ」なんて歌っておきながら、同時に「お前から離れられない」なんて歌ったりしてみたりして。このアンビバレントな感情こそが、まさしく都会人ならではの歌なんですね。

ニューヨークという街は一度も行ったことはないんですが、何となく、今までいろんなロックのアーティストでイメージさせるものは、いろいろありました。たとえばポール・サイモンビリー・ジョエルローラ・ニーロ、そしてスティーリー・ダンなど。でも、ボクにとってはアル・クーパーこそ、「ニューヨーク的」なものを感じさせる最高峰なんですよね。

でも、アル・クーパーって、ボクは高校生の頃に最初に聴いた「アイ・スタンド・アローン」('69)ってアルバム、何だかピンとこなかったんですよ。歌は一応ソウルフルに決めているとはいえ、あまり上手いとはいえないような感じでしたし、曲ごとにフォーク、ブルース、カントリー、R&B,ロックン・ロールと、もう何でもかんでもやってしまう(やってしまえる)ような幅の広さが、「それって節操ないじゃないか」と、ちょっとイヤミのひとつもいいたくなるような。

その後、ボクが東京に上京して、なんとなく都会的な生活の「喜び」「不安」「苛立ち」など、さまざまな感情を時とともに経験していくにつれて、アル・クーパーの歌はとても身近なものになりました。あの「幅」の広さは、決して知識をひけらかしてるんじゃなくて、都会という情報化された社会のなかで「こんなになっちゃった」という諦めのような寂しい感情でもあるわけです。その複雑な感情が入り乱れた独特のロマンチズムこそ、ボクにとってのアル・クーパー・ミュージックなわけです。この「紐育市」と、さらに「赤心の心」というアルバムは特に好きですね。

アルの歌の出てくる主人公は、ほとんどが夢破れたような都会人の嘆きや開き直りのようなだったりします。でも、それをゴスペルみたいな女性コーラスをバックに、実にソウルフルに歌い上げるんです。このポジティブとネガティブをいったり来たりする危うい感じが、なぜかボクにはどうしようもなく響いてきます。