聴く度に、なんとなく春の訪れを感じさせてくれる実にさわやかなピチカート・ファイヴのファースト「カップルズ」(1987)です。このアルバムに関しては、いろんなところでソフト・ロックがどうしたとかA&Mとかロジャー・ニコルスとか語られてるので、あえて繰り返しませんが、とにかく今でこそサバービアだので盛り上がり続けている一連のこうした音楽が、この1987年という時点では、ほとんど誰も振り返っていなかったことだけは強調しなければなりません。

ボクの経験からすると、まず最初ピチカートは細野さんの子分みたいな印象でした。ノン・スタンダードから12インチが出ていて、そのテクノ・ポップっぷりに、ボクはShi-Shonenなんかと合わせて愛聴していました。その後フル・アルバムが出る直前ぐらいに、当時「テッチー」という雑誌があって、そこに小西さんがポール・ウィリアムスの「サムデイ・マン」('70)などと一緒に、ロジャ・ニコのLPなんかを紹介して、それでA&M,さらにソフト・ロックみたいな呼び名をジャンルを認識することができました。ロジャ・ニコのジャケはレココレの「バーバンク特集」で見たことがありました。

高校生の時に家族でハワイに行ったんですが、ホノルルのダウンタウンの古市場で、ロジャニコのLPをたった3ドルで手に入れましたっけ。そんな頃の愛聴盤が、この「カップルズ」でした。この頃はLPからCDに移行していた頃で、ボクの手元のCDコレクションは10枚にも満たなかったのですが、その中にあった「カップルズ」は「繰り返しても音が劣化しない」という、今でこそ当たり前に感じるCDの特性を最大限に生かすべく(笑)受験勉強をしているときも、ずっと部屋でリピートしていましたっけ。今でも全曲ソラで歌えます。でも単なる懐かしさだけじゃない発見も毎回あって、そこが、このアルバムのすごいところなんです。

ちなみに「カップルズ/インストゥルメンタル集」というCDがあるのをご存知でしょうか?要するにカラオケなんですが、オケだけ聴くとまるで洋楽なのが驚きでした。さらに、そのCDには「カップルズよもやま話」として朝妻一郎さんと長門芳郎さんの対談がのっているのが嬉しい。朝妻さんが小西さんに「わざとメロディがおいしくなるのを避けてない?」と質問したという話も鋭いと思いましたが、長門さんが孤島にもっていく3枚として「カップルズ」を挙げているのがビックリ。しかも他の2枚がシュガー・ベイブの「ソングス」と細野晴臣の「泰安洋行」。たしかにボクにとっても、この3枚は特別なものなんです。