日本でサンバと名がつく曲だと「てんとう虫のサンバ」だの「マツケンサンバ」だの、変に明るいメロディーの華やかなものが多いんですが、現地のブラジルでのサンバの曲というは、マイナーなメロディーの暗いものも多い。そんな哀愁のメロディーを賑やかな打楽器類と大人数のボーカルで歌うから、何ともいえない刹那的な雰囲気に溢れるわけです。


このサンバの名盤といわれるオス・オリジナイス・ド・サンバの「リオの熱風」('73)も、日本盤の帯には「超楽しいアルバム」とか書いてあるわりには、何でしょう、このジャケも含めてただよってくる妙な暗さのようなものは。男性ボーカル群の無骨なユニゾン・ボーカルに、ペナペナした生ギター。1曲目の「もっと歌を」の歌詞もたとえばこんな感じ。


「この人生で幸福になりたいのなら、歌うんだ。歌えば 悲しげなまなざしもごまかせる。人生の過酷な争いには危険が一杯。周到に用意された陰謀でひきずりおろされることもある。陰に隠れてわが身を哀れんでも世の中に対する憎しみを募らせるだけ。俺は歌う。歌って辛い思いを癒すんだ。」


ブラジルのサンバやカーニバルの持つ世界観がよく現れている内容ですが、このあたりの雰囲気をより深く感じとりたい方には映画「黒いオルフェ」を観ていただけたらと思います。ボクの生涯のベスト10にも入るこの映画の持つ切なさこそ、サンバの、またはブラジル音楽全体に漂うサウダージ感の本質が隠されているような気がしてならないのです。