馬の骨(堀込泰行/キリンジ)によるロバート・レスター・フォルサムのカヴァー「My Stove's On Fire」がなかなか素敵なんですが、その後、本家のヴァージョンの方を聴き直したら、随分地味な印象。でも、さりげなく「いい曲」なんですよね。決して名曲ではなく、サラっと書いたんだろうけど、印象的なメロディーのフックがあって、それが頭のなかでグルグルとループするような。


昔、大滝詠一が「誰でも知ってる曲をカヴァーするのは、ルール違反だと思うなぁ」とラジオで言っていたことを思い出しました。つまりカヴァーの醍醐味は、カヴァーされることによって発見されること、あるいは耳を素通りしていたある曲が、誰かにカヴァーされることで強く印象づけられることが面白いのではないかと。なるほど。


「Music And Dreams」は、殆んど誰の耳にも届くことがなかった、ごく少数だけプレスされた自主制作盤です。案の定、結局ロバートさんは有名になることはありませんでした。もしかしたら、もう音楽を止めて、違う仕事をしているかもしれません。馬の骨のことをご本人が知って嬉しくなって、「よしもう一度、音楽やってみようかな」などと思ってくれないでしょうか。


ローカルでお金のかかってない、ダイナミクスも少ない、歌もちょっと頼りない、でも誠実な人柄は伝わる音楽。特に胸が切なくなる曲が「April Suzanne」や「Show Me To The Window」、そして「Jericho」といったあたり。どれもポップなのに、ひかえめな印象がいじらしい。